百合田メロ

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その日、わたしたちのクラスに衝撃が走った。 先を見通せそうなくらい透き通った、シルクの純真無垢な肌。 カラコンかと見紛う、こげ茶色の瞳。 鼻はその頂のみが鋭く聳え立ち、無駄なパーツが一切存在しない。 絶世の美人。彼女がこの世に生まれることを見越して造られた言葉なのであろう。 彼女は黒板側を向き、彼女自身よりくすんだ白色のチョークで固有名詞を書き上げ、第一声を振り向きながら発した。 「百合田メロです。よろしくお願いします」 「すごい……。声と名前まで美少女。翔太くんとられちゃうんじゃない、萌」 「美佳は黙ってて」 わたしは片思いの相手のことなど気に掛ける余裕もなく、ただただ呆然とするしかなかった。 「… … … …」 「… … … …」 「… … … …」 おそらく先生や美佳が何か言葉を発している。 その言葉の意味が脳に届かないほど、彼女の登場は衝撃だった。 周りがガヤガヤと話したてる間、百合田さんは最低限の身体の動きで黒板の前に立ち、先生に促されるとそのまま今日からの自席へと歩みを進めていた。 「どうしよう……」 わたしはめいいっぱいの独り言を呟くしかなかった。 朝礼から1時間目までの10分の空き時間をついて、百合田さんの席の周りでは、所謂教室内上位の人間がとり囲みをはじめた。 そこでは、翔太くんやお調子者の隆世なども円周の一団を形成していた。 上位からは距離のあるわたしの耳に、あの集団の言葉は届かない。ただその表情を、息をのんで注視する他なかった。 「全然聞こえんねー」 「遠巻きに見てるしかないねー」 「そうねー。うん。音速は340メートル毎秒、光速は30万メートル毎秒。より信じられるのは視覚情報よ!なんて川原先生が言ってたけど、まさにその通りだわー」 「ああ、そんなこと言ってたね」 「とはいえ萌はガン見しすぎじゃない?」 「うるさい」 視覚情報として捉えられた内容は、相変わらずのベビーフェイスを振りまく翔太くん、ひとり会話を回す隆世、美人特有のテンプレ笑顔で会話を交わしつつ、高めに張ったディフェンスラインをキープしている百合田さんとその他御一行といった感じだった。   この教室を支配するグループは形を変えぬまま、中心軸だけを百合田さんに移動しているようだった。
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