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1日の終わりを告げる就業の鐘が鳴る。
結局、あの後に教室に戻ったのはよかったが何も頭に入らず抜け殻のようになっていた。
初日というのもあって授業がない午前帰りである事を心から安堵するくらいだった。
校門前に立っていると、学校を終えてウキウキと帰っていく人々が見える。
「おーい。」
閃光のように嫌な予感が駆け巡る。
美羽の声ではない。
「おーーい!」
こちらが返事をしなかったからか呼びかける声のボリュームが徐々に上がっていく。
「もうっ!
無視しないでくださいよ!」
案の定、そこにいたのは先ほどまで屋上で一緒だった夏海だった。
「無視なんてしてないよ…。」
「いや、絶対聞こえてたでしょ!?」
それから数分間にわたり、そういった押し問答を繰り返しているところに見覚えのある影が首をかしげながら近づいてきた。
「これどういうことー?
なんで夏海ちゃんとお兄ちゃんが仲良く話してるのー?」
そこに現れたのは首をかしげている美羽だった。
「あれ?もしかして伸也さんって美羽ちゃんのお兄さんなの?」
「あ、ああ。
2人はクラスが同じとかか?」
「クラスどころか隣の席!
それでいろいろ話して、今日友達になった!」
さすがは美羽。コミュニケーション能力までも優秀なようだ。
「怪しいなぁ…。」
美羽はそういうと茶化すような笑いを俺に向ける。
「まぁ、いいや。
ごめん、お兄ちゃん。わたし、このままカラオケ行こうって事になっちゃって行ってきていいかな?
待っててもらっててすごく申し訳ないんだけど…。」
「ああ。全然気にするなよ。」
「ありがとう!
夏海ちゃんも行く?」
「ごめん、美羽ちゃん。
わたし今日喉が痛くて歌えそうにないから、カラオケはまた今度でいいかな?」
「うん、いいよー。
今日のは急すぎるし、また今度行こう!」
美羽はニコニコと夏海にそう返答すると考え込むような表情で俺を見つめた。
「お兄ちゃんさ、夏海ちゃんと友達なんだったらこのまま家まで送ってあげてよ?」
「はぁ!?俺が!?」
「うんうん。
夏海ちゃんね、最近越してきたみたいでこの辺詳しくないみたいなの。」
返答をどうするべきかと美羽と夏海の方を伺うが、2人ともやけにニコニコしていて不気味で仕方なかった。
「あー、わかったわかった。
送るよ。家まで。」
俺のその言葉を聞いた途端、目の前の2人はまるで狙っていたかのように声を上げた。
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