王子殿下の専属染色師

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「ねえカヤちゃん。ラウテルさまのおしきはいつ? やっぱり、みつばといっしょによつばになるの?」 「どう、かなあ」 「えー、なんだあ。ハト、カヤちゃんのおいしょう、たのしみにしてたのに」  専属染色師は、城で開催される対象者の式典に出席できる。カヤの家族はもとより、代表として村長も出席するので、まだ幼いハトも連れていく予定なのだろう。 「おおきみのおやしき、ハトは行ったことないからたのしみなの」 「そっか。ラウの双葉式は、ヒバリちゃんとトキヤも一緒に行ったよ」 「しってる。カヤちゃんのふく、すごくかわいかったんでしょ?」 「ヒバリちゃんに訊いたの? まあ、トキヤは顔しかめてたけどねえ」  ろくに見もしないくせに、似合わないだの分不相応だのと文句ばかり言っていた記憶がある。ラウテルが手放しで褒めてくれたので、カヤとしてはまったく問題はない。 「はあ……。わがあにながら、ほんとばかだわ」  幼女が盛大な溜め息をついた。ヒバリもよく「ごめんねカヤちゃん、トキは本当にどうしようもなくアホでバカだわ」と謝っていた。  姉妹両方にけなされるトキヤは気の毒だけど、もしかするとカヤにばかり当たりが強いのは、鬱憤晴らしなのだろうか。 「あのね、ハトは、ラウテルさまはだから、あんしんしてね」  ハトはよく「ラウテル派」を公言する。いったいなんの派閥なのかわからないが、村の子どもたちも似たようなことを囁く。  同世代の友人たちに訊ねたところ、「カヤはそのままでいいよ」「これに関しては完全にトキヤが悪い」「村の男としてはトキヤを応援したいが、あれは駄目だ」と言っていた。賭け事でもしているのだろうか。 「ハトも、カヤちゃんみたいにせんぞくになりたい。なれるかしら」 「どうかしら」  専属のなんたるかもわからないまま、カヤはその任に就いた。相手がラウテルでなければ、いまのような苦しみは味わっていなかったのだろうか。  けれど、他の誰かの色を知りたいとは思わない。  カヤにとって王族の金は、ラウテルの金茶。すっかりラウテルの色に染まっているのだ。  我ながら重症だった。
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