王子殿下の専属染色師

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 国の中央にある王城。その敷地に建てられた来賓用の建屋に、エゾラから来た面々は案内された。留守番が難しいハトはともかくとして、トキヤまで来ていることには驚いたが、いずれ村を継ぐための勉強なのかもしれない。  身を清めてから王の御前へ向かったが、ハトはすべてに瞳を輝かせており、無邪気な振る舞いには皆が目を細めていた。非礼を詫びる村長に、大君(おおきみ)は闊達に笑う。国を束ねる長はおおらかだ。  謁見の間から出たところでラウテルに声をかけられ、そのまま彼の部屋がある奥宮へ招かれた。  カヤにとっては違和感のない誘いだったが、トキヤはそうではなかったらしい。場所柄、いつもよりは丁寧な口調ではあったが、苦言を呈した。 「軽々しい行いは慎むべきでは?」 「カヤなら問題ないよ。皆、承知している。母も姉も、カヤの衣装を作って待っているんだ。式の前に合わせが必要だろう?」 「衣装合わせ?」 「カヤの衣もそうだけど、僕の祭服もある。カヤには僕の色に染まってもらわないとね」 「……言い方を間違えてる。私がラウの色に布を染めるの」 「違わないよ。染色のとき、カヤの黒い瞳は僕の色に染まるんだから」  瞳に映した色を糸や布に移すが、その際、対象物の色に染まる。  エゾラでは、想いを交わし成就することを「君色に染まる」と称する。  これは、互いだけを瞳に映すことの表れで、エゾラ特有の言い回しなのだが、村人ではないラウテルにその言葉をくちにされると面映ゆい。  案の定、トキヤは怒りの声をあげる。しかしラウテルは笑っていなすだけだ。
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