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「トキヤにはもう関係ないだろう? これは僕とカヤの問題だから」
「もう……だと?」
「言っておくけど、トキヤのほうがずっと有利だったはずだよ。時間も距離も、僕では超えられないものを持っていながら甘んじていたのはそっちだ」
「甘んじてたつもりは――」
「僕はもう引くつもりはない。勿論、カヤの気持ちを蔑ろにする気はないけど」
なにやら剣呑な雰囲気。決して仲が良いとはいえない二人だが、ここまで衝突しているのは初めて見た。
トキヤの声を一方的に絶ったかたちで、ラウテルはカヤの手を引いて奥へ向かった。
トキヤは俯いてこちらを見ようともしていない。喧嘩らしきものは、ラウテルの勝ち、ということなのだろう、たぶん。
「トキヤとなにか争ってたの?」
「うん、ずっと昔っからね。カヤは気づいてなかったんだろうけど」
「顔を合わせれば喧嘩ばっかりだったのは知ってるよ。ごめんね、トキヤが」
「あいつのことで、カヤが謝るな」
途端、ラウテルが冷たく断じる。いつにない語気の強さに、カヤの胸も冷たくなった。
「だって、村のことだし、王家の方には失礼だし」
「それでも、僕よりトキヤのほうに近いみたいな言い方はしないでくれ。カヤは僕の専属だろ。それともトキヤのほうがいいの?」
「いいってなにが?」
問いかけに立ち止まったラウテルがこちらを見て、目を見張った。伸びてきた手が顔の横をかすめたかと思えば、指が目尻に当てられる。
「泣かせるつもりはなくて、言い方きつかったよね、ごめん」
「ううん、私が悪かったんだよね。ラウの気に障ることを言っちゃったんだ」
「違うんだよ、今のは完全に僕が悪くて、ただの嫉妬だから」
「嫉妬?」
「僕よりトキヤのほうが気安いのかなって」
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