王子殿下の専属染色師

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 この国において「(きん)」は特別な色だ。  身に纏うことができるのは王の血族、またはそれらに認められた者のみ。式典で王族が集うと一帯は黄金に染まる。  そうして集中すると、同じ色ではないこともわかってくる。その理由は個人ごとに色が与えられているからだ。  彼らは色を持って生まれてくると言われている。彼らは金を基調とした瞳をしていて、それが固有色だ。  そんな重要な「色」を管理するのがとある一族。  染料となる植物が豊富に育つ、国の東に位置するラデール藩の小さな集落、エゾラ。国が認める染色師が住まう村だ。  黒い髪と瞳。  生粋のエゾラの民であるカヤは、来訪した青年の前で眉を顰める。フード付きのローブで頭部が隠れているけれど、あらわになっている整った顔を見れば、誰であるのかは一目瞭然。 「どうして、こんな場所におひとりでいらっしゃったのですか、殿下」 「いやだな、そんな他人行儀な言い方。君と僕は運命共同体。神が定めた相手じゃないか」  にっこりと微笑む男の瞳は、茶が混じった金色をしている。  ラウテルは第五王子。カヤとは十余年来の腐れ縁である。  王家の固有色が瞳に倣っているのは知られたことだが、染色方法は秘されている。模倣されると困るというのは表向きの理由で、本当のわけは特殊だからだった。  目にした色を布や糸に移す能力。  エゾラの民は、不思議な力を持った一族だ。  王族の瞳から色を移すのもその能力だが、これには相性があるのか、誰が相手でも可能というわけではなかった。  ひとりに対し、たったひとりだけが可能だ。  そんなわけで、王族には専属の染色師が付いている。  つまり、ラウテルの色で染められるのは、この世界でカヤだけ、ということなのである。
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