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  「ねぇ涼ちゃん。スーパーボールを高く飛ばすと願い事が叶うって知ってる?」  隣の家に住む麻衣ちゃんは十個も歳上だったが、顔を合わせると他愛もない話をいつまでもしてくれる優しい人だった。 「私さ、カレシと一緒に住むことにしたんだ。そしたらお母さんにバレて……すっごい怒られちゃったよ。お母さんってば泣くんだもん」  長い髪を揺らしながら笑う麻衣ちゃんは、笑いが引いていくとキュッと唇を引き結んだ。 「でもカレシのところ行くんだ。涼ちゃんは応援してくれる?」  十歳だった俺に、何が言えただろう。応援すると嘘をつくこともできず、反対することもできなかった。  麻衣ちゃんは掌を開いてスーパーボールを見せた。透明のスーパーボールには紙吹雪みたいに金と銀の何かが散らしてあった。 「あげるよ、涼ちゃん」 「願い事しないの?」 「うん、欲張りだから願い事を絞れないの。だから涼ちゃん使って」  麻衣ちゃんの手から俺の手に落とされたボール。 「ねぇ、麻衣ちゃん。いい事思いついたよ」 「なに?」 「『好きな人が幸せになりますように』っていえば皆が幸せになれるんじゃない」  その日初めて麻衣ちゃんは心の底から微笑んだ。 「小学生の癖に生意気」  その日の夜、麻衣ちゃんは家出同然でカレシの元に行ったらしい。いつもみたいに「またね」と言わなかった麻衣ちゃん。  
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