理科室に忘れ物

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 夜の校舎は怖い。分かってはいたけれど、門の前に立って、改めてそう感じた。引き返そうか、という気持ちも起こったけれど、引き返すわけにはいかない。俺は改めて周りを見回し、人がいないのを確認してから、門をよじ登る。忘れ物を取りに行くのだ。俺はここの学校で教師をしているから、ただの忘れ物なら朝になってから取りに行けばいいのだけれど、今回ばかりは、そんなことは言っていられない。  人に見つかるわけにもいかず、俺は気をつけながら進んだ。幸い、仕事の関係で、この学校の警備員が何時頃に見回りにまわるか等は分かっている。だから、そこまで心配する必要はないのだろうけれど、それでも、見つかるわけにはいかないという不安が俺を緊張させる。校舎の中に入り、音をたてないように気をつけながら、目的の部屋に向かう。三階の奥にある理科室だ。  ただでさえ不気味なのに、なぜ理科室などを選んでしまったのか、と少し後悔したけれど、事情があって、そこが最適の部屋だったし、何より、本来はこんな時間に戻ってくる必要はなかったのだ。忘れ物さえしなければ、そしてあんなことさえなければ、今頃、家でゆっくり幸せに過ごしていたはずなのだ。  階段を上がり、廊下を進む。警備員のいる部屋は一階の職員室の側だから、多少音を立てても分からないだろうけれど、それでも音を立てないように意識しながら、俺は進んだ。  そうして、理科室の前まで来た。建物がやや古くて、ここの引き戸を引くと音がする。そんなはずもないのに、その音で自分が見つかってしまうのではないか、と不安になる。でもここまで来たのだ。今更引き返すよりは、引き戸を引く方が良い。というより、引かなくては意味がない。全てがダメになってしまう。  俺はゆっくりと引き戸を引いた。緊張で頭がいっぱいになっていたからだろうか、気が付くと俺は理科室の中に入っていた。忘れたものは、教壇の側に落ちているはずだ。  できるだけ周りを見ないようにしながら、教壇に向かってゆっくりと歩く。近づくにつれて、俺は混乱し始める。無いのだ。忘れたはずのスマホが、そこに無い。ここにあったはずなのに。そして、それだけでない。それ以上に、俺が混乱する原因が、そこにあった。いや、あったというよりは、無かった。
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