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――19時。僕はとあるマンションに到着。ここの3階が田山の部屋だ。僕はエレベーターで3階に上がる。田山宅は廊下の一番奥だ。僕はインターホンを鳴らす。しばらくすると、ドアが開かれる。
「こんばんは」
ドアを開けたのは、田山だった。
「どうぞ、上がってください」
僕は言われるがまま、田山の家に上がる。そのまま、リビングに案内された。
「適当に座っててください。飲み物でも用意しますから」
言われるがまま、僕はソファーに座る。脇に、着替えの入ったバッグを置く。
僕はざっと、辺りを見回す。同居人の気配はない。どうやら、一人暮らしのようだ。一人暮らしでもなきゃ、よく知らない人間に自宅の住所を教えるようなことをしないか。
「お待たせしました」
田山は炭酸ジュースとグラスを持ってきた。ソファーの前にあるローテーブルに炭酸とグラスを置く。
「ありがとうございます」
僕は礼を言うと、田山は笑顔で応える。なんだこの男は。何を考えてるのかわからないんだが。僕は内心毒づく。
「こちらこそ、連絡をしていただき、ありがとうございます。それと、自宅にも来てくれるなんて……」
「それなんですけど」
僕は、懐にしまったナイフを取り出すと、ローテーブルに飛び乗った。グラスが床の上に転げ落ちる。そのまま、田山の頸動脈を掻き切った――。
筈だった。
ナイフを持った右腕が、田山に握られているではないか。そのまま、腕をねじ上げられる。
「うがあぁぁぁ!」
痛さのあまり、僕は呻く。ナイフは僕の手から落ちた。
「なんで、こんな事をするんですか」
田山は僕に尋ねる。
「なんで、って。お前を殺しに来たんだよ!」
僕は必死になって叫ぶ。田山は僕の腕を握ったままだ。
「どうして?」
田山は困った様な顔をする。
「どうしてって……先週の金曜日にしたこと、忘れたとは言わせないぞ!」
僕は掴まれた腕を離そうとするが、ビクともしなかった。田山は、さらに力を込めてくる。
「うぐっ……」
僕は苦痛の声を上げた。
やぶれかぶれに、左手で殴り掛かる。けれど、左手も受け止められてしまう。
僕は、強くなってるんだ。何故、僕の攻撃を受け止めることができる。田山、お前は本当に何者なんだ。
「先週の金曜日ですか……ああ、アレは本当によかった……」
田山はうっとりとした目付きになる。
「僕はよくないの!」
僕は抗議した。
「それは、申し訳ありませんでした……けれど、最初に襲ったのは、あなたの方ですよね?」
田山は僕の顔を見据える。
「教えてください。何故、俺を襲ったんですか?」
「それは……」
僕は答えに窮してしまう。全てを話すべきだろうか?
考えてみれば、田山は僕を殺せたはずだ。これは正当防衛だろう。少なくとも、僕は文句を言う資格はない。だからといって、無理やりヤるのも違う気がするけど……。
僕は田山の目を見る。眼差しはとても真っ直ぐだった。
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