4.朝のきせき

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「宮田さん、僕、このまま会えなくなるの嫌だよ」 「へっ」 「…僕だってもっと宮田さんのこと知りたいし、飲みにも行きたい!遊びに行きたいよ。そりゃ宮田さんを恋愛対象として好きかって言われたら…正直分からないけど」 一ノ瀬くんは少し口を尖らせ、そう捲し立てながら俺を見ていたが、また下を向いてしまった。 「一ノ瀬さん?」 「好きだって言われて、気持ち悪いって思ってないから!むしろちょっと、嬉しかった…ような」 とても小さな声だけど、その言葉はしっかりと聞こえて。俺は思わず一ノ瀬の体を抱きしめた。 「うわあ!」 「ごめん、ちょっとだけ、こうさせて」 俺がそう言うと、強張っていた一ノ瀬の体からゆっくりと力が抜けていくのが分かった。 腕の中で感じる彼の体温と鼓動に、俺はいつまでも抱きしめておきたいと思った。 一ノ瀬くんは俺に対する感情が恋愛なのか、よく分からないという。それは多分俺もここ最近体験した感情。自分の恋愛対象は女性だとどこかで思いとどまっていた。 だけど、認めてしまえば、女性だろうが男性だろうが関係なく、この気持ちを素直に考えたとき、俺ははっきりと一ノ瀬くんが好きだと自覚した。 自意識過剰かもしれないけれど、もし彼が俺と同じ気持ちなんだと気づいたら、きっとあの日、見た、電車に乗って帰っていく高市と大宮みたいに仲良く一緒にいられるはずだ。 そのあとちょっとだけ、気恥ずかしくて気まずい空気は流れたものの、他のパンを食べている間にいつの間にかおしゃべりを再開し、笑い合っていた。 しばらくすると犬の散歩にきている人やジョギングをする男性など、休日の公園らしい穏やかな風景となっていく。 そろそろ戻ろうか、と車に乗り込んだ。 「今度は俺のおすすめのパン屋行かない?明太子フランスパンが有名で美味しいとこがあるんだ」 シートベルトをしながら一ノ瀬くんに聞くと、あっと声をあげる。 「もしかしたら【パネッテリーア】じゃない?僕も大好き」 「なんだよ、知ってたのか」 「残念でした!あの明太子フランスパン、美味しいよね」 大きな笑顔を見せる一ノ瀬くん。あの虹を見た時に隣のビルから見えた笑顔が、こんなにそばにあることが嬉しくてたまらない。 「ねぇ、一つだけわがまま聞いてくれる?」 「なに?」 一ノ瀬くんの答えを待たずに、俺は運転席から助手席の彼に体を近づけてその唇にキスをした。触れるだけのキスは、とても柔らかい。 顔を離すと一ノ瀬くんは目をぱちぱちさせ、やがて顔を赤らめる。そして俺をじっと見てこう言った。 「…宮田さん、どうしよう」 「?」 「僕、キス、嬉しいかも」 それを聞いて俺は思わずそのまま一ノ瀬くんを抱きしめようと体を寄せたけど… 「うわ!」 シートベルトに俺の体が引っ張られたのだ。まるでこれ以上、一ノ瀬くんに近づけないようにされたみたいに。それを見ていた彼は声を出して笑う。 「あはは!カッコつかないー!」 「もー、なんだよ…」 頭をかきながら、俺は体を前に向けてハンドルに手を乗せた。ほんと、カッコつかない。でも一ノ瀬くんが楽しそうにしているなら、いいか。しかもキス嬉しいって言ってたし。 「じゃ、行きますか」 朝とは違う気持ちに、俺は胸を弾ませながら運転する。車が郊外の街を駆けていく中、俺らはおしゃべりを楽しみ、笑い合っていた。
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