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3.ふたりのドライブ
それから一ノ瀬くんと二人で飲みに行ったり、ご飯に行くことが多くなった。
この日に行ったのは、オフィス近くの魚がうまいと評判になっている居酒屋。一ノ瀬くんは以前からここに来たかったらしく、この店を指定した時はかなりよろこんでいた。意外にも日本酒が一番好きなようで、銘柄も詳しい。下手したら大学生くらいに見える一ノ瀬が蟹味噌を突きながら、酒のうんちくを語る様子はなんとも不思議だ。
意外なところは他にもあって、例えばアウトドアが苦手。キャンプなんて究極のアウトドアじゃないかと俺が言うと、どうやら大勢と行くキャンプは苦手で一人でいくソロキャンが好きなのだという。それ以外の海水浴やバーベキューといった類のものは苦手なんだという。
十五時の休憩をしているときは、相変わらず屋上で空を見上げている。当然のように俺の方を向いて手を振ってきたり。たまに出張があるときは『明日から五日間いないから!寂しがらないでね』と泣き顔の絵文字付きのメッセージをくれる。
仕事も順調で、高木からは『一ノ瀬パワー?』などと揶揄われて。まあその後に佐々木課長にバインダーで頭を叩かれていたけれど。そんな日常にすっかり満足したころ…
「俺のことばかり聞いてるけど、宮田さんのことももっと、教えてよ」
夜ご飯を一緒に食べに行ったお好み焼き屋で、ハフハフとお好み焼きを頬張りながら一ノ瀬くんにそう言われた。彼が俺に興味を持ってくれるのが嬉しくて、俺はまるで婚活パーティーかのように自己紹介すると、一ノ瀬くんは『半分くらい知ってる』と苦笑いした。
「特にはまっているもの…はないけど、強いて言えばパンが好きだから、わりと遠いとこまで買いに行くよ」
そう言うと、一ノ瀬くんは持っていたヘラを置き、俺をじっと見た。
「へぇ。ハード系の堅いパン?僕も割と好きでたまに買いに行くんだ」
「ハード系ならこの近所だと【ランデブー】だな」
「あ!そこ僕も好き!カンパーニュ、美味しいよねえ。オーナーが海外で修行して開店した店って聞いたことある」
ようやく一ノ瀬くんと共通の話題ができて、俺はかなりテンションがあがっていた。
お腹がかなり膨れたところで、俺らは店を出て、歩きながら駅へと向かう。
「宮田さんって、話せば話すほど味が出てくるよね」
「そう?元カノたちには『なんだかつまんない』の一言で振られたけど」
「それは見る目がなかったか、宮田さんが自分を見せなかったかだね」
一ノ瀬が痛いところをついてくる。うう、なんでバレたんだろう…
「僕はさ、こうやって一緒に宮田さんと話できるの、嬉しいよ。隣のビルで見かけてた頃から、どんな人なんだろうなって思ってたんだ」
「こんな奴でしたけど、どうだった?」
「もっと知りたいな」
そう笑顔を見せる一ノ瀬くん。
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