4.朝のきせき

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4.朝のきせき

ちょうどレジの横にあったショップカードを見ると、オフィス近所のパン屋【ランデブー】が一緒に印刷されていた。 「このパン屋さん、系列なんですか?」 「ああ、そちらの方が本店です。私がオーナーをしていたのですが、以前から郊外にお店を出したくて。あちらを店長に任せてここをオープンしたんです」 「俺、この店よく行ってまして。もしかしたらお会いしていたかもしれません」 「そうですか!嬉しいな」 パンを包み終えて、紙袋を渡される。焼きたてのパンが入っているのであたたかい。 「ありがとう」 次にレジに並んでいた一ノ瀬くんが引き続き会計をする。そのあいだに彼から話かけてきた。 「焼きたてのパン、あたたかいうちに食べたいなあ」 「うん、そうだね。どこかで食べよう」 そんなやりとりが聞こえたのか、一ノ瀬くんにパンを入れた紙袋を渡す際に、先ほどの店員が話しかけてきた。 「ここから少し先に公園があるんですよ。ちょうど眼下に街が見えるので、そちらに立ち寄られるかたもいらっしゃいますよ」 「そうなんですか。じゃあ、そこに行こうかな」 「焼きたてのブール、気に入っていただけると嬉しいです」 店を出て少し車を走らせると、さっき教えてもらった公園が見えた。駐車場に車を停めて一ノ瀬くんと一緒に買ったばかりのパンを持って公園に向かう。 少しだけまだ肌寒いけれど、さっきよりはましだ。ベンチのある先には、木々の先に街を見下ろすことが出来て、なかなかの景色。まだ八時過ぎなので周りには人がいない。 俺らはベンチに座り、焼きたてのほんわりと暖かいパンを取り出す。パリッとした表面の生地にクロスされた切れ目が入っていて、そこから手でちぎると、しっとりとした生地が出てくる。口に入れるとちょうどいい塩梅の塩気と小麦の香りがして、幸せを感じてしまう。そして何より、こうして一ノ瀬くんと二人でのんびり出来ることが嬉しい。 「美味しいね!あの店員さんが作ったのかな。あの人もイケメンだったねぇ。あーあ、僕の周りはイケメンだらけ」 「一ノ瀬くんは可愛いくて、俺は好きだけどなあ」 ぽろっと自然に口から出てしまった。ヤバい、と思ったが、一ノ瀬くんは聞こえなかったのか聞こえないふりをしたのか、返事をせず前を向いていた。 さわさわ、と風が吹いて彼のふわふわの髪が靡く。こうやっていつも近くで顔を見れたらいいのに。隣のビルから見るだけじゃ、寂しい。 そんなことを思っていると突然、一ノ瀬くんが立ち上がり、前方に走っていく。そして空を見つめている。いつものように、口を開けて。 「どうしたの?」 俺は座ったまま彼に声を掛けると…こちらを振り返り、大きな声をだす。 「宮田さん!虹がでてる!ほら、前に!白い虹だ!」 一ノ瀬くんが来い、と手招きするのを見てベンチから立ち上がり走っていき指さしている方を見た。 街並みが見えるその先に、確かにアーチになっている虹が見える。ただいつもと違うのは七色ではなくて、白い。 「本当だ…!」 白い虹なんて初めて見た。あとで調べたのだが 「霧虹(きりにじ)」という現象らしく、霧が上がるタイミング、放射冷却現象、そして盆地という地形が偶然重なってできるもので霧の水滴は、太陽光線が分光されずに七色にならず、白く見えるらしい。 あまり遭遇できるものではないようで、一ノ瀬くんと俺はその神秘的な虹を口を開けてみていた。虹は五分くらいして薄くなり消えてしまった。普通の虹よりも消えてしまうのが早いようだ。
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