4.朝のきせき

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ドライブのあと、一ノ瀬くんのマンションまで送った。車を停めて、じゃあねと彼にいいながらもお互いに動けない。 ふいに運転席の俺と助手席の一ノ瀬くんの目が合い、まるで磁石のように吸い寄せられて、彼に顔を近づけると、一ノ瀬くんは目を閉じ顔を開ける。そんな『キス待ち』の彼に俺はまた唇を重ねた。 柔らかい感触を確かめて、唇を離すと一ノ瀬くんは真っ赤な顔をしていた。 「…一ノ瀬くん。あの、さ。よかったら付き合ってくれないかな?」 彼はまだ自分の気持ちの整理がついてないと言っていたけれど、もう待ってられない。友達ではなく恋人になりたい。その気持ちは俺だけじゃないはずなんだ。一ノ瀬くんもきっと、分かっていると思う。 一ノ瀬くんは、じっと俺を見つめると手を伸ばしてきて、腕を掴む。そして小さく頷く。 「…宮田さんからの告白って、もしかして初めて?」 「うん。緊張するもんだな」 「うわ、モテる人の発言だあ」 そう言うと、照れながら見せてくれた笑顔。それはあの日見た虹のようにキラキラと輝いて見えた。 *** 「宮田あー!お前また休憩しやがって!」 喫煙スペースでタバコを吸っていたら、高木がドアを開けて入ってきた。 「何?佐々木課長今日いないだろ」 「明日の朝イチの会議資料、間に合わないだろ!お前なー、もう一ノ瀬と付き合ってんなら、この時間にわざわざここに来なくていいだろうが」 時計を見ると十五時半。高木は窓ガラスから隣のビルを覗いた。 「あれ?あいつ、いないな」 「今週は出張なんだってさ。今晩帰ってくるよ」 俺がニヤニヤしながらいうと、チッと高木が舌打ちする。 「なんだよ、これだから付き合いたてのラブラブカップルはムカつく」 「お前だってラブラブだろ」 「飲み会の時に佐野と一緒に撮ったツーショットが康貴に見られてさぁ。昨日から口聞いてくれないんだ」 「…そりゃ、自業自得だろ」 俺はタバコの火を灰皿に押し付けて消した後、高木の頭を叩いた。 「あと半日で休みだ、頑張ろうぜ高木!」 「お前が休憩しなかったら、もっと早く終わるんだよ!全く…」 ぶつぶつ言う高木と一緒に喫煙スペースのドアを開けて、オフィスフロアに戻る。 窓ガラスの向こうには青空が広がる。明日もいい天気だと気象予報士が言っていた。それなら少し遠いところにあるパン屋に行こうかな。きっと一ノ瀬くんは嬉しそうに笑うだろう。 「これ美味しい!」 その笑顔を見て、俺は幸せを噛み締めながら笑うんだ。 【了】
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