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番外編:こんばんは、一ノ瀬です
「またエラーになったああ!」
ばん、と机を叩き、顔を手で覆う。元々現場で作業していた僕が間接部署に配属になったのは、一年前。いまだにパソコンが苦手でいまもまた、関数がエラーになって泣ける…
「とりあえず頭冷やしてこよ」
腕時計で時間を見ると十六時半過ぎ。僕はふらりと席を立ち、屋上へと向かう。
屋上への重い扉を押し開けると、外の少し冷たい風が気持ちいい。飽和していた頭がスッキリしそうだ。
僕はいつものように柵にもたれかけて景色を見ている。今日は夕焼けがいつもより綺麗で、周りのビルに夕陽が反射している。もみじのように、空とビルが赤く染まっていた。
ふと、僕は視線を変えて宮田さんの勤務するビルを見上げた。いつもと違う時間なので、彼の姿は当然ない。
(んー、この綺麗な夕焼け、一緒に見たいなあ)
外回りが多いし、もしオフィスに居てもスマホがみれるとは限らないけど僕はポケットからスマホを取り出して、宮田さんに『夕焼けがすごいよ』とメッセージを入力した。
うーむ、送ろうかな、どうしようかな。
スマホから目を離し、再度宮田さんのビルを見上げると…
そこにはさっきいなかった人影が。紺色のスーツで、タバコを加えてこっちを見た男性は、紛れもなく宮田さんだった。
僕は驚いて手を振ろうとしたら、スマホがプルっと揺れた。メッセージが入ったようでそれを確認すると…
『何サボってんの』
宮田さんからそんなメッセージが入っていた。僕は思わず笑ってしまう。さっき入力したメッセージに付け加え、送信する。
『夕焼けがすごいよ って宮田さんに送ろうとしてた!』
彼のスマホがメッセージを受信し、それを宮田さんは見ている。やがてスマホから目を離し、こちらを向くと、手で丸印を作ってくれていた。
メッセージすればいいのに、と思いながらも僕も大きく手で輪っかを作った。
ああ、嬉しいな。こういうの。
しばらくすると宮田さんは手を振って、消えていった。きっと仕事が忙しいんだろう。
あと少し仕事を宮田さんに会える。今夜は二人でおでんを食べながら、家で日本酒で乾杯しよう。
そう言えば美味しい高知のお酒があったなあ。
僕は大きく背伸びして、もう一度赤く染まる街並みを眺めた。
【了】
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