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それまで手にしていた、体操服や体育館シューズを入れた手提げを、床に置く。ざっと室内を見て回った。腰を屈めて床に膝をつき、丁寧にバスケットボールのカゴから確かめる事にした。
記憶には無いといっても、深緋に母親の存在を知らしめてくれるのは、あのロケットペンダントだけだ。一枚だけ持たされた、あの写真でしか顔を知らない。どんな性格でどんな声を出して深緋の名前を呼んでいたのか、想像することしかできない。
亡くなった母親のことは、祖母から少しだけ教えて貰ったが、いまいちピンと来なかった。
祖母は、父親の存在は知らないと言っていたし、母親がどんな経緯で命を落とすことになったのかも分からないと言っていた。
そんなはずはない、詳しく知りたい。そう思っても、祖母を悲しませるような気がして、今だに聞けずじまいだ。
それでも、いつかは分かる日が来ると思っている。
祖母から託されたあのロケットペンダントを持っていれば、いつかは母親を知れる日が来るはずだ。
友達に重きは置けないが、同族、ましてや家族という存在は、深緋にとって何よりも大切だった。
バスケットボールのカゴを動かし、奥に潜んだカラーコーンを調べる。
不意に六限を告げるチャイムが鳴り、ハッと顔を上げた。
なんとかして、放課後までには見つけないと。
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