♯2.希薄な人間関係は良しとしても、探しものは念入りに。

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 それまで手にしていた、体操服や体育館シューズを入れた手提げを、床に置く。ざっと室内を見て回った。腰を屈めて床に膝をつき、丁寧にバスケットボールのカゴから確かめる事にした。  記憶には無いといっても、深緋に母親の存在を知らしめてくれるのは、あのロケットペンダントだけだ。一枚だけ持たされた、あの写真でしか顔を知らない。どんな性格でどんな声を出して深緋の名前を呼んでいたのか、想像することしかできない。  亡くなった母親のことは、祖母から少しだけ教えて貰ったが、いまいちピンと来なかった。  祖母は、父親の存在は知らないと言っていたし、母親がどんな経緯(いきさつ)で命を落とすことになったのかも分からないと言っていた。  そんなはずはない、詳しく知りたい。そう思っても、祖母を悲しませるような気がして、今だに聞けずじまいだ。  それでも、いつかは分かる日が来ると思っている。  祖母から託されたあのロケットペンダントを持っていれば、いつかは母親を知れる日が来るはずだ。  友達に重きは置けないが、同族、ましてや家族という存在は、深緋にとって何よりも大切だった。  バスケットボールのカゴを動かし、奥に潜んだカラーコーンを調べる。  不意に六限を告げるチャイムが鳴り、ハッと顔を上げた。  なんとかして、放課後までには見つけないと。
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