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♯0.Prologue
ここに一冊の本がある。刊行はいつごろなのか、数十年の経年劣化で表紙は黄ばんでふるぼけている。
一見すると、まだ幼い子供に読み聞かせとして使われる絵本のたぐいであるように見えるが、持ち主にとってはそれ以上の意味を持つ。
絵本の内容は、ある一族の中で何代にもわたって語り継がれてきた大切な教えであり、伝承だ。
たよりない豆電球だけの明かりが照らす一室で、今、幼い娘が規則正しく寝息をたてている。小さな胸を上下させて、愛らしい頬に長いまつげの影を落としている。
手をのばし、彼女は娘の頭をなでた。みぞおち辺りまでずり落ちた掛け布団を肩までかけてやる。
さっきまで手にしていた絵本の表紙に目を落とした。もはや必要ない、と。あのときから読まずにしまっていたそれを引き出しの奥からひっぱりだした。
今までに何度となく読んだ最初のページをめくる。
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