おばあさんの巻

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おばあさんの巻

係員「こんばんは。 いつ、どこで、何をお忘れになりましたか?」 私ね、一昨日で85歳になりましたの。 家族がね、昔から私が利用していた店から料理を運ばせてね、お祝いをしてくれたの。 心臓を病んでからは直接お店に行くことができなくなっていたから、とても嬉しかったわ。 お料理も昔と変わらず美味しくて。私、少し食べ過ぎてしまったの。 大好きなピンク色の薔薇の花束が飾られていて 気持ちが高揚していたのね。 私ね、息子たちにはそれは厳しく教育したの。 常に目標を立ててね、達成したら次の目標に向かわせて、決して褒めたりしなかったの。 今はねぇ、褒めて育てるなんて耳にしますけれどね、人はしょっちゅう褒められたら甘ったれになると、私、考えましたの。そしてね、人生のもうゴールねって時になったら、最後にとびきりの笑顔で褒めてあげようと決めてたの。 嫁たちや孫たちの前で、こんなに立派な素晴らしい人間は他にいませんよ、と自慢してね、 息子たちを抱きしめて、偉かったわ、愛してるって言おうと計画してたのよ。 係員「では。一昨日、ご自宅で、息子さんたちへの褒め言葉、をお忘れになった。ということでよろしいですか?」 はい。 係員「それでは2分間で、そのお忘れ物を取りに行かれてください。」 2分間‥ええ、ええ、それだけあれば十分です。 ありがとうございます。ありがとう。
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