第32話 種の行方は

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「そうか……?もし、コルディエに行くなら、周りに気をつけるんだぞ。花街には降りないようにして、暗くなる前には宿に帰れよ」 「心配症な兄ちゃんだな〜」  なおも私を心配してあれこれ言うキーアンを、アックスが茶化す。 「そりゃ、心配にもなるだろ。コルディエはヴァイドゥーラと違って大きな街で、悪い奴も歩いてるんだから。気をつけるに越したことはない」キーアンは至って真面目に言った。 「私も依頼の方行きたいなあ、あと2日くらいでバイトやめてよさそうか、今日聞いてみる。ってことで、また夜にね!ロナ、ほんとありがと!いってきまーす」カエデはキーアンと私の方をそれぞれ向いて、言いたいことだけ言うと、あっという間に部屋を出て行ってしまった。 「あいつ、俺には何もなしかよ」アックスが少し拗ねたように言う。大きな体をしているアックスだが、こうして見るとまるで子供のようだ。 「まあまあ。俺らもそろそろ出掛けるか?」 「……おう」  キーアンとアックスの二人も、荷造りを済ませると部屋を出て行ってしまった。  私は私で、洗濯を済ませなくては。  部屋を出ると、宿屋の奥さんが隣の部屋のベッドのシーツを、部屋の外に出しているところだった。これから洗濯するのだろう。  私たちは3階の階段を登って、壁側を巡る通路をぐるりと回った、一番奥の部屋に泊まっている。  廊下は広くなく、隣の部屋の前には積み上げられたシーツが進路を塞いでいる。  タッタッタッタッと軽快な足音がして、髪を短く刈り上げよく陽に焼けた、私と近い年頃の小柄な少年が階段を駆け上って来た。 「おかみさん、このシーツも下に持ってくよー!」 「はいよ、お願いねー」  少年はシーツを持ち上げようとして、はたと私に気づく。「君みたいな女の子も、この辺の宿に泊まるんだな。俺、このシーツ下まで運ぶけど、ついでになんか運ぶか?その服とか」少年が私の持っている泥だらけの服を指すので、私は慌てて断った。「ううん!シーツに泥が付いたら困るし!自分で持ってくわ!」 すると、少年は白い歯を出してニカッと笑った。 「このシーツだってすぐに洗濯すんだ、乾いた泥が多少付くくらい大したことはないよ。その服も洗濯だろ?ついでに持っていくよ。ここの階段は急だから、慣れないうちは両手が塞がった状態で降りると危ないよ。」  そう言うと、少年は私の手から服を取り、シーツの山の上に載せて、軽々と階段を駆け降りて行った。  一切の遠慮も躊躇もない動きだった。タッタッタッタッと軽快な音が響く。階段の吹き抜けの一番上、天井に近いところの小窓から、爽やかな風が吹き込んで、若緑の葉が一枚、足元にひらりと落ちた。食堂での出来事を除けば、優しい人ばかりに出会っているように感じる。  横の部屋から宿屋の奥さんが出て来て、私に笑いかけた。 「大したもんだろう、あの子。よく働いてくれるんだ。信用して大丈夫だよ。さて、あなたたちの部屋も入っていいかな?」
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