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家に戻り食べた弁当は、今日最初に口にするものという空腹感を差し引いても申し分なく美味かった。
「飯も美味いけど、やっぱここの金時豆絶品だな…」
鷹彦は元々あまり食べる方ではないためか、すぐ体重が減ってしまい体調を崩しやすいのがこれまた昔からの大きな悩みだった。
背はそう低くもなく、骨格だって人並みのつもりなのだが、着痩せするのか、服を着ると一層華奢に見られてしまうようで、周りからの過剰な心配にも悩まされてきた。
体質だけでなく、この数年は特に不規則な生活が原因という事も察してはいたが、改善への着手がまず難題なのだ。
あの弁当屋の発見で、悩みのひとつが解決の糸口を見せた事に安堵の気持ちを覚えつつ、むしろ変わってやりたいよと、酔った同期にイカみたいだと揶揄された焼けない肌を撫でた。
全身に栄養を行き渡らせるように伸びて、またこの数日で溜まったチラシをキッチンのカウンターテーブルに置きっぱなしだったのが目に入り、無造作に掴んで弁当の空容器を入れた袋と共に今日もキッチンのゴミ箱へ持って行く。
割と几帳面な性格だからか、別にいつも不要な物しかないと思ってはいても、一応チラシはめくって確認してしまう。
ひら、と一枚落ちた。
面倒だ面倒だと言いながらこんな事をしているからいつだって面倒なんだと、また独り言を言いながらそれを拾おうとして、既視感を覚えた。
―――また、ミスプリント?
四つ切りサイズの赤紙。
もしかしてと思い、手に残ったチラシを急いでめくるとまた一枚。
ミスに気付かずに、毎日一枚ずつ投函する業者があるだろうか。
委託なら、どうでも良いと入れてしまうんだろうか、とも考えながら何となしに紙の匂いを嗅いでみると、どこか柑橘系の香りがするような気がした。
「まさか、あの弁当屋なんてことないよな……」
弁当によっては金時代わりに入っているカットミカンを思い出して、どこかざわりとするものがあったが、だとしても意図が分からない。勝手に疑うのは悪いなと、人の良さそうなタレ目に思い直して、今日もくしゃりと捻じって捨てた。
簡単に部屋の掃除をしてまた少しのんびりして、一度目の食事が遅かったのでそんなに腹は減っていなかったが、休みのうちに多少の食料確保をしておくかと、仕方なく再度家を出ることにした。
「オレンジジュース飲みたいな…」
飲み物はいつも大体、職場近くのコンビニで買って帰ってくる。
まとめて購入したいのだが、せいぜい二リットル二本程度が仕事帰りの鷹彦に運べる限界だった。何かいい方法はないかと、容赦ない早さで薄暗くなってきた道をぶらぶら歩いていると、ふいに呼び止められた。
「吉開さん! …で、合ってますか?」
振り返ると、あの弁当屋だった。
「なんで、僕の名前…?」
「すみません。あの、これ、お昼うちに来てもらった時に落とされたんじゃないかと思うんですけど…」
相変わらずもじもじと話す弁当屋が出したのは、クリーニング屋の引取り伝票だった。
財布から札を抜いた時に、気付かず落としてしまったのだろうと受け取る。
「あぁ、すみません。僕のです。ありがとう」
いえ、すみません、とまた返してくる弁当屋がどこから出てきたのかと気になる。
鬼ヶ島弁当は隣の筋のもっと先だ。
流石に日に二度も行くのは躊躇われて、あえて違う道を歩いてきたのだから間違いない。
「お弁当屋さん、もう閉まったんですか?」
「いいえ、配達です。今から店に戻ります。この辺の企業さんお休みだとほとんどお客さんもこないんで、こんな日は水とか米とか、頼まれてる個人さんとこに持って行くんです」
これは良い事を聞いたと思った。
「ねぇ、僕の家にも配達頼めるかな?」
「えっ? あ、はい!」
弁当屋は虚を突かれたような顔をして、何故か赤くなった。
「すぐそこの宿舎なんだけど、今ちょうどそういうの配達してくれそうな所あったら良いなって探してたんだ」
「じゃあ注文聞くんで、店まで乗って下さい」
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