3人が本棚に入れています
本棚に追加
1
パラシュートを忘れて飛び降りた人間が居るんだが……なんとかしてくれ。
「ラジャー!!」
上からいきなり無理難題を押し付けられたボク。
空は飛べるけど、フリーフォールで内臓が浮かび上がるあの感覚は出来れば味わいたくないなあ。まあ、文句を言っても仕方がないからやりますけど。
だって、ボクも生活がかかってますから。少々嫌な案件でも、受けなきゃ誰かに取られてしまいますので。そこが給料完全歩合制の辛いところですよ、まったく。
さてと、そろそろ指定の場所だ。
パラシュートを忘れて飛び降りるなんて、果たしてどんな顔してるのやら。きっと真っ青になってるに違いない。
お、いたいた。
どれどれ。あれれ、意外にも楽しんでるみたい。そうか、まだ気がついてないだけか。
と、言う事でお仕事お仕事。
「こんにちは、ボクこういうものです! あなたの忘れ物をお届けに参りました」
差し出した名刺が落下の風圧で飛ばされてしまったから、ボクは首からぶら下げてるパスケースの社員証を見せた。
そうですよね、あなた普通です。これを見て「ああ、そうですか」とはなりませんよね。普通はあなたみたいにキョトンとなります。
だからちゃんと教えてあげるのがボクの役目なのです。
可哀想だけど。
「申し上げにくいのですがあなた、既に死んでますよ」
そうです。
ボクは死んでいることを忘れているヒトに「既に死んでますよ」と伝えて、成仏して頂く伝導死士という仕事をしているのです。
そりゃ、色々苦労もありますよ。
大抵はこのヒトみたいにパニックになりますし、暴れたりもされます。素直に着いてきてくれません。そんな時は、仕方ありませんがもう一度、死を再現させて頂くのです。
ほら、もうすぐ地面が……あぁ。
何が大変って、こうなった時の後始末が面倒なんですよ。
「さ、では参りましょうか。迷える魂達よ」
最初のコメントを投稿しよう!