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家のことは、使用人がほとんどやってくれる。掃除、洗濯、食事の用意など全てだ。仕事でほとんど家に帰ってこない親の代わりでもあった。
その使用人が、ある日突然辞めてしまう。父親と合わなかったのだ。
家にいることが少ない父親だから、使用人と関わることは滅多にない。だけど、その日は父親が家に一日中いたらしく、なぜか使用人と言い争いになったという。皇祐が学校から帰ってきた時には、使用人が家を飛び出していなくなったあとだった。
よくあることだから、驚きはしないのだが、次の使用人が決まるまでが不便になる。家のことは全て任せているから、自分で何かするのは困難なのだ。
辞めてしまった使用人に、思い入れはなかった。親の代わりでもあったが、短期間で辞める人ばかりで、心を開く前にいなくなってしまうのだ。だから、寂しいという感情は生まれない。
しかし、翌日の昼に、皇祐は悲惨な目に合うのだった。
いつもお昼のお弁当は使用人が作ってくれるのだが、辞めてしまった以上、それまでは自分でどうにかしないといけない。
学校には、購買部がある。そこで昼食を買おうと思い、購買部の前まで来て、皇祐は途方に暮れた。
「……これって、買えるのか?」
昼休みの鐘が鳴ったと同時に、みんな即座に購買部へ急ぐ。中には、授業が終わる前に、教師の目を盗んで抜け出す人もいた。
そんな人たちを不思議に思っていたが、いざ自分が当事者になればわかる。ゆっくりとした足取りで購買部に向かったのが間違いだった。既に人だかりができていて、ものを選ぶのも厳しいように思えた。
だが、躊躇している余裕はない。昼休みの時間は限られているのだ。早くお昼を買って、次の授業が始まる前に食べてしまわないといけない。
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