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そっと目を閉じたら、余計に緊張が高まってしまう。
自分の心臓が大きな音を立てていて、敦貴に聞こえているんじゃないかと恥ずかしくなった。
ただの練習。本当にするわけじゃない。緊張で手のひらには汗をかいていた。
早く終わってほしい。頭の中でいろんな考えが交差していて、整理がつかなくなっていた。
肩をぐいっと引っ張られる。
キスされるわけじゃないのに、壊れそうなほど鼓動が激しい。
敦貴は彼女の美咲のことを思い浮かべながら練習に挑んでいるのだろうか。
練習とはいえ、目の前にいるのは男友だちの皇祐だ。気持ち悪くはないのか。
彼女とどんな風にキスをする?
優しくするのか?
激しくするのか?
この場で実際にするわけじゃないのだから、確認はできない。
そもそも確認してどうする気だ。
自分が誰かとキスをする時に参考にするのか?
肩を掴んでいた手に力が入ったのがわかった。
その瞬間、皇祐の鼻に敦貴の鼻がちょんと触れたのだ。
思わず、目を開けてしまう。目の前にこちらをまっすぐ見つめる敦貴の顔があった。
――触れたい。
「敦貴! アンタ部屋にいるのかい!?」
突然、怒鳴るような声が響き渡った。
「あ、母ちゃん、帰ってきた。うるさいなー、なんだよ」
敦貴は立ち上がり、文句を言いながら部屋から出て行った。
皇祐は自分の身体を両腕で抱きしめる。震えが止まらなかったのだ。
今、頭に思い浮かべたことに、驚きを隠せずにいた。
男の友だちである敦貴とキスをしたいと考えたのだ。
鼓動はドクドクと早鐘を打っている。
こんなことおかしいとわかっているのに、その思いは止められなかった。
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