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 皇祐は、その人だかりの中に足を進めてみることにした。  何とか中には入ることはできたが、今度は人に押されて、身動きが取れなくなった。前に進むことも、後に戻ることもできない。  高校生男子の平均身長よりもだいぶ低い皇祐は、体型も細身で小柄だった。だから、すぐに人混みに飲まれてしまうのだ。  たくさんの人がぶつかり合い、押し潰されそうになっていた皇祐が、人と人の隙間を見つけて、どうにか手を伸ばした。何でもいいから、指に触れたものを掴んでみる。  袋に入ったパンらしきものが、二袋も手にできた。それを大事そうに胸に抱き、店員にお金を払って、地獄のような場所からようやく脱出する。  ほっと息をついた皇祐の姿は、制服だけじゃなく髪も乱れていて、ひどいありさまだ。学生らしく短い髪型ではあったが、前髪だけは少し長めで、こだわりを持っていた。  父親には、短髪でいることを言いつけられているから、見つからないようにするのが大変だった。 「明日は、学校来る前に買ってこよう……」  そう心に決めて中庭に向かおうとしたら、大声を上げて騒いでいるのが聞こえてきた。何ごとかと思って声のする方に視線を移せば、男が購買部の店員と何やら揉めているようだ。
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