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 昼休みは、二人だけになれる唯一の時間だ。  中庭でゆったりとお昼を食べる。  だけど、この日は敦貴と二人にはなりたくなかった。  彼女との報告を聞くのは、今の皇祐には酷なこと。だからといって、敦貴といられないのも嫌だから複雑だ。  敦貴は購買部に行っているから、中庭には先に来ていた。  食べるのが早い敦貴に合わせるため、皇祐はさっさと食べる準備を始める。  いつもの決まったベンチに座り、お弁当箱を開けた。今日は、皇祐の大好物のちくわの磯辺揚げが入っている。  使用人に、お弁当のおかずで何が好きか聞かれて答えていたが、きちんと覚えてくれていたようだ。  即座に口へ運ぶと、皇祐の好みの味が広がり、喜びに満たされる。 「えー、そんなに美味しいの?」  購買部から戻ってきた敦貴は、弾けるような笑顔を見せた。それだけで胸がいっぱいになった。  さっきまでは敦貴と二人になりたくないと考えていたのに、その思いはいつの間にか消えてなくなっている。 「コウちゃん、すごい嬉しそうな顔しながらもぐもぐしてたよ。いいなー」  隣に座った途端、皇祐の弁当箱を覗いてくる。 「何か食べたいものある?」 「んー、今日はいいや。コウちゃんのなくなっちゃうし」  ニッと笑った後、大きな口を開けて、たまごたっぷりのサンドイッチにかぶりつく。  皇祐は、彼女の美咲のことを話題に出した方がいいか迷っていた。  友だちなら、そういう話で盛り上がるはずだ。きっと敦貴も喋りたいだろう。  経験はなくても、敦貴の話を聞くことはできる。今までもそうだった。  しかし、自分の気持ちに気づいてしまった以上、平然とした態度で聞いていられるか自信がなかった。  普通の友だちがどういうものかもよく知らないのに、という感情を持っているとさらに難しくなる。  もともと人付き合いは苦手で、友だちも必要ないと思っていた。そのせいで今、自分を苦しめている。 「コウちゃん、お弁当食べないの? 全然減ってないよ」 「ああ、あまり食欲がなくて」 「そうなの? じゃあ、そのウインナーもらってもいい?」 「いいよ、好きなの食べて」  お弁当を差し出せば、目を輝かせてほくほく顔になった。 「ありがとう。玉子焼きも食べたい。コウちゃんちのおいしいんだもん」 「うん」  先ほど食べなかったのは、我慢して遠慮していたのだ。  美味しそうに食べる敦貴の姿を独り占めできる。  皇祐にとって至福の時間だった。
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