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自販機でパックの牛乳を買い、中庭のいつものベンチに座った。時間を確認して、がっくりと肩を落とす。昼休みがほとんど失われていた。
「何だか、疲れた……」
とりあえず腹ごしらえをしようと、パンの袋を見て、更に落ち込むことになる。
もう一つ手にしていたパンは、レーズンパンだった。よりにもよって、なぜこれを選んだのかと自分を責めたくなる。皇祐は、レーズンが苦手だった。
昼からも授業があるから、昼食を取らないわけにもいかない。レーズンを取り除くということも考えたが、それを捨てるのも忍びなかった。仕方がないので、牛乳で流し込むようにしてレーズンパンを腹に入れた。
途中、涙目になりながら、やっとの思いで食べ終えた頃、なぜか小此木敦貴が現れる。
「あー、いた、いたー」
皇祐の姿に気づいた途端、小走りで近づいてきた。
パンを間違って買ったことに、文句でも言われるのだろうか、と不安が頭を過ぎった。身構えていれば、突如、腕を掴まれる。
「パンのお金、払ってなかったから」
手のひらを上に向けさせられ、そこに小銭を無造作に置いた。
「……良かったのに」
「ダメだよ、こういうのはちゃんとしないと」
そう言いながら、隣にどっかり座った。
もう用は済んだはずなのに、なぜ居すわるのか。意味がわからなかった。彼から少し離れるため、気づかれないように身体を横にずらしてみる。
彼の腕には、透明の大きなビニール袋が下げられていた。中にはたくさんのパンが入っているようだ。その中から、さきほどのパンを取り出す。いかにも嬉しそうに、口元には笑みを浮かべていた。
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