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「ねえ、いっつも、ここで食べてるの?」  急にこちらを向いたので、うろたえそうになった。反射的に顔を背けて返事をする。 「うん……」 「ここ、気持ちいいもんね。でも、雨の日はどうするの?」 「……雨の日は、教室で食べるよ」 「ふーん」  聞いてきたのは彼なのに、あまり興味がないようだった。彼の視線は、パンの方に戻っている。勢いよく袋を開けたら、こちらまでイチゴの香りが漂ってきた。 「わぁ、おいしそうだー。いただきまーす」  大きな口をあけて、ぱくりとパンを頬張った。満足そうに目を細め、唇にクリームがついているのも気づかないらしく、夢中でパンにかじりついている。 「やっべー、これすげーウマい」  美味しそうに食べるその姿を見ているだけで、何だか幸せな、暖かい気持ちにさせられた。 「そんなに、おいしいのか?」  話しかけるつもりはなかったのに、つい声をかけてしまった。食べるのが早いから、もうパンは彼の腹の中だ。  皇祐の方を向いた彼は、困った顔をする。 「もしかして、食べたかったの?」 「いや、僕はいらないけど」 「なーんだ、びっくりした。これ人気だから、狙ってる奴多くてさ。オレ、これが食べたくてこの学校に入ったから、もう思い残すことないなー」  彼の発言に、皇祐は衝撃を受ける。 「え? それって、ここじゃないと食べられないものなのか?」 「似たようなパンはいっぱいあるけど、これはイチゴもバナナも新鮮なものを使ってるし、クリームもこだわってるから全然違うんだって。それに、このパンの生地のやわらかさは絶妙だよ。しっとりしてさー」 「……そう、なんだ」  興奮して熱く語る彼に、圧倒された。だけど、ここまで喜んでくれるのなら、パンを作った人もきっと嬉しいに違いない。何の思い入れがない皇祐が食べるよりも、求めている彼が食べてくれて、本当に良かったのだ。  それにしても、彼はなぜ、ここに居続けるのか。既に昼を食べ終わっていた皇祐は、手持ち無沙汰で困っていた。
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