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 午後の授業が終わり、皇祐は教室から出ようとした。  その時、肩を叩かれ呼び止められる。 「コウちゃん!」  振り返れば、そこには小此木敦貴がいた。 「もう! さっきから呼んでるのに、無視するんだもん」 「……コウ、ちゃんって、僕のことか?」 「あれー? コウスケって名前じゃなかった?」 「そうだけど……」 「なら、コウちゃんでいいじゃん」  聞き慣れない呼び方に、困惑していた。自分をあだ名で呼ぶ人はいない。今までにも呼ばれたことはなかった。彼は、いとも簡単に距離を縮めてくる。 「オレのことは、敦貴って呼び捨てでいいよ。苗字は言いにくいからさー」  歯を見せてニッと笑った。何が楽しいのかわからなかったが、悪い気はしない。 「……敦貴、何かあったか?」  名前を呼ぶのは、何となく気恥ずかしくて、声が小さくなっていた。 「ああ、そうそう。コウちゃんも一緒にラーメン食べに行こうよ」 「ラーメン?」 「ほら、昼に言ってたじゃん。新しい店がオープンするって。これから予定あるの?」  いくつか習い事をしていたけど、この日はちょうど何も入ってない日だった。 「……ないけど」  そう答えてから、失敗したと思った。  敦貴の後ろに、こちらを見ている男子が数名いる。みんなで行こうとしていたところに、彼が皇祐の名前を出したのだろう。嘘でも用事があると言えば良かったのだ。 「僕が行っても……」  雰囲気を悪くするのは、わかっていた。それなのに、敦貴は強引に腕を引く。 「じゃあ、いいじゃん。行こうよ」 「敦貴……!」  みんなの前に、皇祐を連れ出した。 「コウちゃんも行くってー、早く向かおう。絶対混んでるもん」  彼らは何も言わなかったが、なぜコイツもついてくるのかといような微妙な空気を漂わせてた。そんなことも気づかず、敦貴は本当に楽しそうに、飛び跳ねるようにして喜びを表す。
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