7人が本棚に入れています
本棚に追加
萩原英の家は、老舗の繊維会社だ。
会社社長の父と、役員の母と、兄二人の三人兄弟で育った。
英は、小さい頃からピアノを習っていて、音楽に親しんできた。
上の兄の瞬は、東京の大学の二年生だ。いずれ父の会社を継ぐ身だ。ガールフレンドのユカは、やはり東京の女子大に通っている。
両方の親同士公認の仲で、このまま大学卒業したら、結婚するのだろうと、回りから思われていた。
英にとっても、ユカは姉さんのような存在になりつつある。
兄の友人達は、会社経営者の子弟ばかりで、比較的自由な家庭が多い。
つまり経済的に余裕があり、遊ぶお金には不自由しないが、親は仕事で忙しく、留守がちだった。
兄の親友、杉山浩人も、そういう一人だった。兄とは中高一貫校で、ずっと一緒で、大学こそ違ったが、東京に進学したので、交流が続いている。
実は、浩人は英にとってあこがれの人だった──
浩人は、眉の濃い、はっきりした目鼻立ちをしている。長身で肩幅も広く、スポーツ万能だった。兄とは夏に琵琶湖でヨットを一緒にやっている。
自分にはない、男らしい魅力があり、側にいると胸がときめいた。
勉強も出来たが、何よりエレキギターが上手だったので、英は尊敬に近い気持ちを持っていた。
休みで大阪に帰省している時は、いつもギターを教えてもらいに、瞬兄さんと一緒に杉山邸ヘ通った。お陰で英はなんとか、簡単な曲なら弾けるようになったのだった。
ライブの日、英のエスコート役は、その浩人に任された。
浩人への気持ちは、ふんわりとしていて、英にはまだそれが恋なのかどうか、自覚はなかった。
ただ浩人と一緒に行ける事は、素直に嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!