『メキシカン』の夜

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『メキシカン』の夜

『メキシカン』でのハーキュリーズのライブの日がやってきた。 ユカが英のために用意した服は、薄いグリーンのミニワンピースだった。衿はハイネック、スカートにはプリーツが入っている。 これに白いブーツを合わせ、ロングヘアのウィッグをかぶると、どこから見ても可愛い女の子になった。 「英ちゃん、睫毛が長~い。つけまつげはいらないわね」 ユカの手で、大きな瞳はマスカラとアイラインで縁取られ、一層魅惑的になった。ピンク色に塗られた唇は、濡れたように輝いている。 「すごくよく似合うわ!しっかり目のメイクをしたから、中学生にはゼッタイ見えないわよ」 「上出来だな、ユカうまくやったな~」 瞬兄さんも上機嫌で見ている。 「えっ──これ僕?」 鏡を渡されて、化粧をした顔を見ると、全く知らない女の子のようだった。自分でない自分がいるようで実感がない。不思議な気持ちだった。 英は、女の子が欲しかった母から、小さい時から女の子のような可愛い服を着せられて育った。 中学に入ると制服があったが、セーターは母と共用で、女物を着ていた位だ。それでもこんなまるきり女の子の格好をして、外に出るのは、生まれて初めてだ。
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