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そんなある日のこと。
僕がいつものように部活を終えて教室に向かうと、笑里の机の上で何かきらりと光るものを発見したのである。
「え!?」
僕はぎょっとしてしまった。彼女の机の上にあるものは、誰がどう見ても彼女のスマートフォンだったからである。きらりと光ったのは、ラメの入ったピンクのスマホケースだった。
この忘れ物は非常にまずい。僕は教室の空気を味わうという目的を忘れて、急いで学校を出たのだった。彼女とは小学校の頃よく遊んだから、家もよく知っているし母親とも顔見知りである。大した距離でもないから、直接届ける方が早いと判断したためだ。
「すみませーん!」
彼女の家も、僕の家と同じ一戸建てだ。
ぴんぽんを鳴らすと、すぐに玄関が開いて笑里が出てきた。その頭には、青い星飾りがついたカチューシャがついている。小学生の時によく見たカチューシャだなと思った。中学校に入ってから、身に付けているのを見たのは初めてである。
「これ、忘れ物。お前のスマホだろ?」
「あ、あ……ありがと、波川、くん」
何でそんなにきょどきょどしているのだろう――見知らぬ間柄でもないというのに。スマホを手渡したところで、彼女は。
「その……スマホの中身、見た?」
どうやらそこを気にしていたらしい。僕はすぐに首を振る。
「ずっとケースに仕舞ったままにしてたから、ロック画面も見てないよ」
「そ、そう」
「そりゃそうだよ。勝手に人のスマホを見るなんて、マナー違反だろ?」
「そ、そうだよね。うん、ありがとう……」
何だろう、その微妙な反応は。僕は首を傾げる。再び目に入ったのは、彼女の星のカチューシャだった。つい、思ったことを口にしてしまう。
「久し振りにそのカチューシャ見たな。小島に似合ってて可愛いと思う」
言ってから、しまった、と焦る。これでは口の軽いナンパ師か何かのようではないか。相手によっては、セクハラと感じて不快になる可能性もある。もしも笑里が嫌がったらどうしよう、と思ったが――どうやらその心配は杞憂だったらしい。
「ほんと?」
彼女は、向日葵が咲いたように笑った。
「嬉しい。これ……波川君が昔、かわいいって褒めてくれたやつ。子供っぽいかなと思って学校にはもう着けて行けないんだけど……引っ張り出してきて、本当に良かった」
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