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「――それで、泣き虫だった店主はすっかり自信を取り戻してね。桜餅は、春の看板商品になったわけ」
「へえ、そうなんだ」
母の説明は熱が入り過ぎて、子どもに説明するには難しい単語を連発してくる。
それでも、母と店主の二人でたくさん頑張ったことが伝わってきた。
「私は、美味しいお菓子が食べられれば、それでいいんだけど……」
つい本音をポロリと言ってしまうと、母の視線が厳しくなった。
「あら。せっかく語ったのに。私の頑張りがなければ、奈帆はそれを食べれなかったはずよ」
「お母さん、ありがとうございます」
「よろしい、よろしい」
母はえっへんと誇らしげに胸を張った。
そして、また一年が過ぎて。背中にあたる昼間の日差しが少し暖かくなったと感じる頃。桜餅の季節がやってくる。
「奈帆ー! 桜餅買ってきたわよ!」
「やったぁ!」
季節限定のお菓子に嬉しさがいっぱいになる。そういえば、今年になってから初めての桜餅だ。
「桜餅解禁! って感じだね!」
母は一瞬目をまん丸にすると、顔を綻ばせた。
「そう言ってもらえると、あの店主も喜んでくれると思うわ」
根強いファンのいる、みつみつ堂は春に限らず客足が途絶えない。
春を知らせる桜餅は、これからも季節限定の看板商品であり続けるだろう。
みつみつ堂の桜餅のエピソードを知っているのは、この物語の登場人物とあなただけ。
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