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優子がみつみつ堂を訪問すると、店主はほくほく顔で待ち構えていた。
「優子さん! 桜餅、絶好調だよ!」
「よかったです」
相談に乗っていたときの、死にそうな顔とはがらりと変わり、笑顔が弾けて元気溌溂としている。
桜餅のついでにと、他の和菓子も売れているらしい。
本当によかった。自分のことのように嬉しい。
「今日は午前中に売り切れて、買えなかったお客さんがいて、かわいそうなことをしたなぁ」
「そのときは、SNSで桜餅売り切れって発信してみては? お客さんの無駄足にならずに済みますし、何より、それを見た他の人にも人気商品だって宣伝にもなりますよ」
「そうか! そんな使い方があったんだな」
店主は元気よく返事して、メモを取っている。真面目な店主のことだから、すぐに実践するに違いない。
宣伝のアドバイスまでするのは、まるでコンサルタントみたいだ。
桜餅を発売してすぐは、新商品の珍しさがあったのか好調だった。
しかし、1週間を過ぎたところで売れ行きに陰りが出てきた。せっかく量を増やして店に並べても、売れ残るようになったのだ。
そんな連絡を受けた優子は、すぐさま現地調査することを決心した。敵情視察だ。
客の顔をして、おかしの大月で買い物することにした。
広い店内に入ると、家族連れが目に入った。こんな光景はみつみつ堂で見ることはできない。みつみつ堂の狭い店内は、ひと家族で店がいっぱいになってしまう。
レジ付近に気になるポップが立てかけられていた。SNS投稿キャンペーンだ。その内容は、和菓子を写真に撮って投稿したら、桜餅を1つプレゼントされるというもの。明らかにみつみつ堂の桜餅を意識している。
そして、桜餅のコーナーに行くと、みつみつ堂は150円だったのに、大月は130円で売られていた。20円の差だけど、安い。価格でも対抗されている。
勝つには、どうしたらいいのだろうか。
アイデアを練りながらショーケースを眺めていたら、店員さんに話しかけられた。
「お客さま、お取りする商品などございますか?」
「ええと……それじゃあ、どら焼きを2つ」
「かしこまりました」
店内をぶらつくだけの予定だったのに、体裁を気にしてついつい買ってしまった。
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