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【番外編】 巻き込まれるエイリーク様
こちらの番外編は、ほのぼのイチャイチャ短編です。
(アンジェリカ編、前後章の間に入る、アンジェリカ20歳の初夏の時点でございます)
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side: エイリーク
「は? なんで僕がそんなことしなきゃいけないんだ」
「唯一無二の双子の弟を助けると思って」
「お前、ただ面白がってるんだろ」
まったく、今の僕は溜まった納税報告書に目を通すので忙しいんだ。そこを、急に帰省してきた弟・ジークムントに捕まった。
「だいたい、王都に出てまだ半年もたってないってのに、もう逃げ帰ってきたのか?」
「近くに出張に来たからついでに寄っただけだよ。明日には戻る」
どうやら昨晩、地元に着いたその足で、ストラウド邸にいるアンジェリカを訪ねたようだ。
「なのに追い返されたんだ。アポイントがありません!って」
「それはお前が悪い。アポ取ってから行けよ」
「取る時間なかったよ。それにしてもヒドくないか、門前払いって」
まぁ、エレーゼならそんなことで目くじら立てないけど、アンジェリカじゃなぁ。
「たぶんだけどさ、王都進出に誘った時のこと、まだ根に持ってるんだろうな」
またこいつ何言ったんだ。
「アンジェリカの機嫌損ない臨界点が分からない。だからエイリーク、俺のフリして彼女に謝ってきてくれ」
「だからなんで僕が!」
「いやなんか俺、彼女にはうまく謝れないみたいなんだ。なぜか火に油を注いでしまう。その点お前は、多方面に頭下げ慣れてるだろ?」
「ダイレクトに失礼だな」
「お前なら事務的に謝れるだろうと思ってさ。その様子を客観的に見ていたい」
「その誠意のなさが彼女の機嫌を損ねてるんじゃないか?」
「誠意も何も、俺は別に何も悪いことしてないし言ってない」
…………。揃いも揃って面倒くさいな。しかしジークムントはもっと器用に人付き合いしていたはずだが。
僕は今、1歳になった娘・エレノーラの顔もゆっくり見れないほど忙しいんだ。ため息が出る。
「これ、やるから」
「?」
ジークムントが手荷物から厚紙を取り出した。
「……。そ、それは!」
湖畔に佇む水車小屋の描かれた色紙。その繊細な色使い、軽やかで叙情的なタッチは……。
「お前の推し画家5本の指に入る、ヴィンセント・ミューシャの署名付き絵画色紙だ!」
「な、なんでこんなプレミア物を!」
「彼のお母上を診たことが縁で、描きおろしてくれたんだ」
「ご、ご本人から直接!? 非売品だと!?」
「ああ。王都にいると、著名人と知り合う機会が結構あってさ」
うわあああ手から喉が出るくらい欲しい~~!!
「さぁ、ストラウド邸に行こう」
ジークムントが僕の肩に手を回した。
「アンジェリカなら、今朝ノエラ邸に来ていたぞ」
「ん。なら手っ取り早い。ほら、俺のタイ締めて」
はぁ。ジークムントを装って頭下げたら、さっと逃げよう……。
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