side:A  試される実力(?)

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side:A  試される実力(?)

 ジークムントと書斎にやってきた。  今朝のアンジェリカは、エレノーラに読み聞かせる絵本を大量入手したとやってきたから、そろそろブランチを終えて書斎(ここ)にしまいに来るはずだ。 「じゃあ俺はこの机の下に隠れているから」  僕はいったん廊下に出て、彼女の訪れを見張っているか。 **  書斎の入口を覗ける廊下の陰で待機中だ。  ジークムントのフリをするのは久しぶりだな。  子どもの頃、弟に劣等感を募らせていた僕は、無益な悪戯を実行していた。パーティー会場に着いたなら同年代の子らの輪に、ジークムントのフリをして入っていく。そしてヴァイオリンを披露したりしたんだ。するとみんな面白いほどに騙されてさ。  まぁ種明かしもなしにその場を立ち去って、その後ジークムントが現れると僕はまた、「じゃない方」になっていたけれど。  そんなわけでわりと自信はあるが、大人になってからの(あいつ)は分からないな。  だいたい、なんでそんなにアンジェリカをかまいたがるんだ?  あ、彼女がやってきた。使用人にたくさんの本を運ばせている。  ふたりの入室後、すぐに使用人は書斎から出ていった。じゃあ行くか。  まずアポイントなしで訪ねたことを謝って、しかし門前払いは堪えたと白状すればいいだろう。本人はそれも殊勝に言えないのだから。  多少の緊張感をはらみつつ、ドアをノックする。 「はい、どなた?」 「あ──。ジークムントだけど」  すぐにドアが開いた。 「…………」 「君がここにいると聞いて。ちょっといいか?」 「……どうぞ」  僕の顔をまじまじと見つめたアンジェリカだが、疑いの目ではない。ジークムントが帰ってきていることも知ってるしな。  彼女は椅子に腰かけて、書棚から選んだ詩集を見ていたようだ。  よし早速。 「ごめん!!」  まったく頭を下げ慣れている自分を感じる。明らかにシャルロッテのせいだ。 「な、なんですか藪から棒に」 「機嫌を直してくれ!」 「は、はぁ? 機嫌?」 「俺に何か落ち度があったから、昨晩会ってくれなかったんだろ? もしかして王都に出る前に言ったことで、とか……」 「……いえ。単に、急にいらしていただいても、人前に出る準備などが」  顔を逸らしつつもチラリと彼女の顔を目にしたら、どうも照れているようだ。あれ、こんな表情、この子にあったっけな。 「そんなの適当でいいよ」 「…………」  じろっと睨まれた。余計なことは言わない方がいいか。 「ジークムント様」 「はっ、はい!」 「私、エレノーラにと絵本をたくさん集めましたの。その机にあるものですが」  ジークムントが隠れている机の上に、山積みの本。 「ずいぶん多いな」 「ひもでくくってありますので、全部ほどいて、棚にしまっていただけませんか?」  これぐらいの手伝いで機嫌を直してもらえるなら、お安い御用か。  机のペン立てに刺されたナイフを、この手に持った。
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