308人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
side:A 試される……何?
それからアンジェリカの喋りに耳を傾けながら作業を進めている。当の彼女は座って詩集を読んでいるだけだが。
「この度はどうして?」
「出張で近くまで来てさ、2日余ったから寄ったんだよ」
「ストラウドになんて寄らず、まっすぐノエラに帰ってくれば良かったのでは」
アンジェリカ、やっぱり照れてるのか? ぷいっと目を逸らした。
「いや、通り道だったから」
「……そうですか」
あ、露骨に白けた顔になった。
頼むよ、君の機嫌が直らないと報酬がパァになるんだよ。
何かご令嬢が喜びそうなこと言わなくては!
これがエレーゼだったら……
「いちばんにっ、君に会いたかったから!」
……“エイリーク様ってば♡ もう♡” ってモゾモゾするエレーゼが思い浮かぶよ。
「…………」
ん、ダメか?
「ジークムント様」
「はい……」
「私のつま先に、キスして」
「……は??」
椅子に腰掛けたまま彼女は、右足を前にずらした。
「ほら。この間、おっしゃったじゃないですか」
「?」
「王都の若者の間では、つま先へのキスで永遠の友情を示すことが流行ってるって」
へ、へぇ!??
「この間はしてくださいましたのに。憶えていませんの?」
「ええ!? そ、そうだったかなぁ!?」
声が上擦ってしまった。
「あなたの友情もその程度ということですわね……」
「い、いやぁ……」
なにそれ!? 都の若者ってそんなことしてるのか!? 友情なのそれ、なんか重くない!?
しかし、とにかく、この場をうまく収めるには……
「ここで……、それをしたら、機嫌を直してくれる?」
「……機嫌、機嫌って。別に私、通常の気分ですが」
自覚ないのか!
「まぁ、してくれましたら、以降門前払いは決していたしません」
今度はにっこり微笑まれた。
…………。仕方ない。ごめんエレーゼ、報酬のためだから!! なんなら君に何倍ものキスを捧げよう!!
僕はため息交じりに、彼女の足元へと踏み込むのだった。
最初のコメントを投稿しよう!