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乱入美女
「ノエラ家ご嫡男のエイリーク様、ですわね?」
「ア、アンジェリカ……」
私はすかっとしている場合ではなく、遅ればせながらヒヤっとする。彼女が何か不躾なこと言ったりしないかと。
「あなた様のお見合い相手は私ではございませんわ。私はエレーゼの妹で、ただの付き添いですの」
「え?」
「おっしゃりたいことは、こちらの、私の姉エレーゼにどうぞ」
「……あ――」
気まずい雰囲気が漂う。当たり前だが。
「私、お邪魔でしたわね。下のフロアでお待ちしておりますわ」
「アンジェリカ……」
彼女は扉口をするっと抜けて行ってしまった。家同士の諍いにならなくて一安心だ。さすが我が妹、プライドは突き抜けて高くあるべきね。
お父様に促され、彼もソファに腰掛けた。紹介人が焦りながら彼を紹介する。しかしここは既に、ものすごく決まりの悪い場。
「あ、あの」
彼が口を開いた。
「今、申し上げたとおり、なのですが私は……」
その時、ガタン!と激しく音を立て、扉が開いた。この場の4人、一気にそちらを振り向く。
「エイリーク!!」
「シャルロッテ!?」
そこで私の目に入ってきたのは、素晴らしく可憐な貴婦人――小さな頭、白く艶めく細長い手足に、パールを上品にあしらったオフホワイトのマーメイドドレスがとてもよく似合う。
プラチナブロンドの長い髪がたおやかにうねり、まるで海から上がってきた人魚姫のよう。
そんな美女が見合いの場に乱入してきた――!??
「シャルロッテ、何があったんだ!?」
「それがね、大事件なの!」
「事件?」
「家の料理人が全員、原因不明の高熱と腹痛で寝込んでしまったの!」
乱入してきた美女が……私やこの部屋の雰囲気を完全無視して、まくし立てている。
「全員!? それは大事だな。いったいどうしてそんなことに」
「原因不明って言ったわよっ!」
その時、先ほどの拾い物が私の脳裏をよぎった。こちらの貴婦人、彼女はあの金時計の……肖像画の女性であった――。
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