子育て終わりの一つの夫婦の形。

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子供らが巣立って間もなく私は久し振りに帰ってきた旦那に離婚届を突き付けた。 それはあまりに自然に。感情もなく、夕飯の味噌汁をよそうかの如く。 「何?これ?」 旦那は流石に驚いていた。 「見ればわかるでしょ?離婚届だよ。」 私は対面に座り夕飯に手をつけながら言った。 「そりゃ見たら分かるけど、え?何で?」 私のあまりの冷静さに旦那は感情を爆発させる事もなく、とりあえずいただきますと手を合わせて茶碗を持った。 「いや、もう子供も巣立ったし、もうそろそろいいかなぁ?って。」 私は相変わらず箸を止める事はない。 「そろそろって、、俺、何か悪い事した?実家と何かあった?」 旦那も夕飯を進める。 「いや?貴方はよくやってくれたよ。私の不器用な料理も文句言わず食べてくれたし、息子らにお金の不安を与える事なく育てて貰ったし、お義父さんもお義母さんもいい人。だから同居した時期もあったじゃない。今でも仲はいいし。」 一呼吸置いて行った。 「でね、何もない事が逆に問題なのよ。」 旦那は「?」の顔をしている。そりゃそうだろう、明らかに問題もなく、寝耳に水だ。 でもだからって離婚するのに【問題】が必ずなくてはならない事はない。 【問題】に全くならない位、私には結婚生活自体が無意味だったのだ。 情が無ければ、ムカついたり、憎んだりする事もない。大体何も相手に望んでいないのだから、、、 「問題がないんだったら別に離婚しなくても良くない?子供も巣立ったし、お前は好きな事をしたらいいし、これからは夫婦水入らずで旅行にも行けるじゃん。」 と旦那。 水入らずで旅行、、、あり得ない、、 この人と二人きりとか、、間が持たない、、 結婚してすぐに子供が出来て、私は彼の事をまともに名前で呼んだ事は一度もない。 嫌いじゃないが、好きでもない。 そんな人にこの先ずっと一緒にいる事なんて、、ちょっと、、無理。 いや、家には殆どいないから自由っちゃ自由なんだけど、、一緒の戸籍に入っているってだけで、私は永遠に「唯一の私らしさ」には戻れないのだ。 常人には理解して貰うのは難しいかもしれない。 【問題】があった方が容易く理解して貰える。 ママ友にもそう言われた。 「この歳になると旦那に愛なんてあるわけないじゃない。悠々自適に旦那のお金で暮らしたらいいじゃん。」 「わざわざ今から一人って、どうやって暮らして行くの?大変じゃない?!」 「あんな(都合の)いい旦那さんと別れるなんて勿体ないよ。」 等々。 そうね、そうかもしれない。 そこにもし愛なり等の情があれば離婚は考えなかったはず。 うちはそもそもが恋愛結婚ではなく、私は子育ての共同経営者としてしか考えた事もなく、思ってた以上に子供は可愛く全身全霊で子供に愛を捧げてしまったので、旦那を知ろうとも愛そうとも思わなかった。 だから子供を授けて貰って育児をさせて貰って、お金にも嫁姑問題にも困る事なくここまでやってこれた事に、旦那には感謝でしかない。 感謝こそするが、だからといってこの先の私の人生まで捧げるのはまた違う気がする。
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