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過去を振り返っても、主導権はいつも妻にあった。
主導権と言っても、子供がベースなので、子供が喜ぶ所へ連れて行って欲しい、というお願いばかりだ。
高いブランドバッグを買ってくれとか、彼女はそういうタイプではなかった。
家を売るまでは必死で何も考えなかったが、時間が経つにつれ、彼女がどうしているのか?元気でやっているのか?が気になった。
気になっただけで、やっぱり俺には連絡は出来ない。
子供に聞いても「知らない。」としか答えない。そう言われると、そんな訳ないだろ、とも言えない。
久々に会いたい。
会ったからどうするという訳ではないが、家庭に嫁さんがいるから支えになった。
帰ってたわいもない話をするのも今になっては懐かしく、もう一度にだけ、と思ってしまう。
ただ、彼女には俺は不必要とまで言われれば、俺の出る幕はない。
確かに俺は妻が好きだったはずだ。
はず、というのも俺は引き摺られる様にいつの間にか身体の関係になっていて、いつも奇想天外な彼女の後ろを微笑みながら歩く、という形だったからだ。
「好きだ。」とか、「愛している。」だとか言った記憶はない。
勿論「結婚して下さい。」とも。
全ては彼女が先に言う。
俺は頷くか相づちを打つだけで事はとんとんと運んだ。
面倒臭い女みたく「ねぇ、私の事愛してる?」とか聞くタイプでもなかった。
だから俺は愛されているのだと思っていた。
俺は全てが受け身だった。
けれど、子供より妻の方がぶっちゃけ大事だった。
俺なりの愛情表現もしたはずだ。
結婚記念日、誕生日だって忘れた事はない。
でも結局手のひらで転がされていたのは大黒柱の俺の方だった、という事だ。
今では本当に妻が俺の事を愛していたのかも分からないし、俺は妻をちゃんと愛せていたのかも分からない。
分からないなりにでも俺は妻の事が頭から離れない。
これは夫婦の情なのか、男女の未練なのか、、俺はそれすらも分からない位、恋愛偏差値が低すぎた。
実際帰る家を失って、休日に何も予定がない。風俗にも酒にも興味はない。
だから余計に虚しい。
妻の「おかえり。」がこんなに懐かしく感じるなんて、、
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