66人が本棚に入れています
本棚に追加
離婚して初めての二人での外食。
お互いの近況報告やら子供の話やら、昔話に雑談。
確かに俺達の歴史は短くはない。
だから時に笑い、時に共感し懐かしむ。
お互いお酒は飲まないので、食事自体はそんなに時間はかからなかった。
とはいえ、妻がカラオケに行こうと誘うので、俺はそんなに歌わないが、彼女の歌を聞くのは好きだったし、まだ帰りたくなかったというのが正しい。
いつもならマイクを持つと永遠に歌いまくる妻だが、今回は歌の途中途中で会話もする。
話好きな彼女はどーでもいい様な事でも大袈裟に身振り手振りを入れて話す。
俺は話は殆ど聞いていないが、その話をする時の彼女の楽しそうな顔が好きだったから、相づちをうちながら聞いているふりをする。
全てが懐かしく。耳障りもいい。そして見ていて微笑ましい。
でも、俺達は離婚をした。
何で俺はあの時サインをしたんだっけか?
何時間かのカラオケが終わる。
あぁ、もう帰らなくてはならないのか、、、
まるで切ない片思いをしている気分に近かった。
次、確実に会えるかどうかも分からない不安定な関係。
いいのか?俺。
俺はカラオケ店を出てパーキングに着くまでの間に隣に歩く彼女の手を繋ぎたかった。
結婚している時はそんな事思った事もないのに、、、
パーキングに着くまで後少し、、、
焦る。
とても、焦る。
今、何とかしなきゃ!
何かしらを伝えないと!!
でもどうやって!?
俺が必死で考えながら歩いているのを他所に、彼女は相変わらずのテンポで喋る。
彼女が何を話しているのかは俺には聞こえていない。ただ勝手に口がいつもの通り相づちだけを打っている。
車に到着。
運転は彼女。万が一俺がアルコールを飲みたくなったらという配慮からだった。
彼女がキーのボタンを使って車のロックを外す。
俺は身体が動かなかった。
助手席に乗れば、終わる。
終わる、、、、。
運転席の扉を開いた彼女は一向に動かない俺を見て流石に不思議に思ったみたいで近づいて来た。
「どうしたの?具合、悪い?」
俺の顔を覗きこむ。
最初のコメントを投稿しよう!