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リリーは言葉を発せないでいるままであったが、ユニの言葉にこくりと頷いた。
「そのパーティ、私も出席していたの。そしてそこで私とペンタスが会えば、必ず彼は幼馴染であり一番素で日常を分かち合える私を選んでくれるという自信があったの」
「おさな……なじみ」
「ええ、私のお母様とペンタスの母親が親友でね。どちらかがお茶会を開くたびに私やペンタスを連れて足を運んでいたの。結構な距離があるのに、幼子を馬車に乗せて連れまわしていたのよ、お母様たち。でもそのおかげで私はペンタスに出会えたし、物心ついた時にペンタスの笑顔を見た時はきっと彼が私の運命の人だと確信していた……はずなのになぁ。まさか、とびっきりおめかしして私が一番綺麗だぞって言えるくらいで参加した場所にご本人が来ないでそのまま終わるなんて思わなかったのよ。まるで、大切な宝物を知らぬうちに泥棒された気分だった」
泥棒、という言葉にリリーは息を飲んだ。
『知らないところで、知らない女にお宝を取られたって気持ちでしょうね』
いつしかペンタスとの会話の中で言った自分の言葉が言霊のように脳内で反響したリリーは、ドレスの裾をぎゅっと握りしめ俯いた。
「ねぇ、お願いリリー。もし、ペンタスに気持ちがないのなら……私にその座を譲ってほしい。私、ペンタスを思う気持ちは誰にも負けないぐらい、強いの」
手を掬い上げられたことで視線を動かされてしまったリリーはユニの目を真正面から見てしまい、そのまま懇願の言葉を投げかけられ言葉を詰まらせた。ルビーの瞳は、強い決心の光だけではなく感情が高ぶったために溜まった滴でわずかに潤んでいた。
(本当に、愛しているんだ)
目を見れば人の感情は大体わかる。
人生の中でそれはリリーの中でとても役に立ったが、今は知らないでいたかったという困惑を胸中に渦巻かせながらリリーはユニから目を逸らした。
「ユニのためなら……譲りたい、けど」
リリーはそこで大きく深呼吸をし、何かに気道を蓋されたような喉のつっかかりを無理矢理整えユニを見た。
そして、続きの言葉をなんとか発した。
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