リリー・ルシアン

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リリー・ルシアン

「転職をオススメします」  その一言を冷徹に言い放たれたことに、そう言われるだろうと予想はしていたものの最後の希望を打ち砕かれたような気分になったリリーはため息を抑えることができなかった。  リリー・ルシアン。  雪の色が浸透したかのような真っ白な髪を頭頂部に結い上げ、全ての悪事を見逃がさぬとばかりに光る眼光は青く鋭い。そんな特徴の容姿を持つ細身の女性は冒険者の中でも英雄と謳われる人物であり、『白の死神』という異名を持つほどの有名人でもある。  ――が。今はもう、元、と言う方が妥当だろう。 「その足で今まで通りに冒険をするのは危険です。貴女のような方でしたら低級程度、なんてことないでしょうがそれでも万が一というものがあります。どうか冒険者をおやめくださいませ」  そう言ってちらりとリリーの足下に視線を投げながら冒険者への依頼窓口を担当している受付嬢は凛とした口調で告げた。幾人もの冒険者を相手している内に受付嬢というものは舐められないためにツララのように冷たい口調がセオリーになる。淡々と難易度の高い任務をこなしていた身としてはその冷たさが事を運ぶのにスムーズで有難いと感じていたが、今は毒の仕込んだ短刀のようにじくりと心臓を切りつけてくることにリリーは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。  そして、受付嬢が視線を一瞬向けた自分の足下を見た。  義足となってしまった左足を。 「……わかりました。冒険者の規定があるのはわかっています。ただ、ダメ元でも私なら、と思っただけですので」 「理解が早くて助かります。流石は元英雄です」  リリーのため息交じりの言葉に、受付嬢は少し安堵した様子を瞳に過らせ言った。それにリリーは再び心を痛めていたが、いつまでも昔の栄光に縋ってばかりなのもよくないことが頭ではわかっていた。ただ、心の底から離れたくないと思うほどにその栄光は手放したくない貴重なものだった。リリーの24年間の人生の中で一番輝いていた瞬間ばかりであったから。  けれどもう、仕方ない。  リリーは義足となった方の足を撫で、まだ記憶に新しい経緯(いきさつ)を思い出し歯噛みする。  基本リリーはソロ冒険者であるが、魔物の群れを倒して欲しいという依頼があり複数の冒険者とパーティを組んで依頼を遂行することになった。その際、冒険初心者である少女が目の前で命を落としそうになった。別に捨ておいてもよかった。共に過ごした日数はせいぜい3日程度。その者に情など湧いていなかった。それに冒険者が命のやり取りをするのは日常。だが、目の前で死者が出るのは英雄として捨ておけなかった。救える命があるなら命ある限り動きたかった。だから少女の前に立ち、左足で毒の牙を受け彼女を守った。  その神経毒が厄介であったのだ。
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