リリー・ルシアン

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 左足と共に失ったものは痛いが、守った選択は決して間違っていなかったのだと。 「貴女の妹が、私よりさらによき冒険者とならんことを祈るわ。それじゃあ、今までお世話になりました。じゃあね」  リリーはそれだけ告げて冒険者依頼窓口から離れて家に帰ろうと足を進め――暫く離れたところで盛大なため息を零した。 「別の人生を歩むなら、もうあっちしか残ってないだろうなぁ」  口にしてみて、また大きなため息をつくリリー。  あっち、というのは、リリーの家柄に関係することだ。  受付嬢の前ではなんとか気丈に振舞って見せたが、本当は頭を抱えて唸りたかった。  リリーの住まうルシアン家は、実は由緒正しき貴族の家。  貴族として宝石業で名を馳せた父は、令嬢の中でも1・2を争う完璧な令嬢と謳われていた母を妻にした。これ以上に完璧な貴族の夫婦はいないだろう、と言われるほど様々な家系から一目置かれている両親は貴族の手本として本にも乗るほどだ。王族と並んで微笑む絵画も描かれるほどの栄誉を持っているルシアン家の中で生まれた一人娘が、リリーなのである。両親としては母のような完璧な令嬢に、と思っていたようだがそれはリリーの性に合わなかった。周りからも令嬢としてのリリー・ルシアンを求められたが、血のにじむ努力をして冒険者となりルシアン家の名にふさわしいと言われるまでの英雄までのぼりつめた。  が、冒険者業を出来ぬとなればもうその道は進めない。  しかしここで問題なのが、今まで剣と魔法を極めてばかりいたリリーは女性としての作法など一切知らないということだ。裁縫、料理、生け花、音楽などのことは何も出来ない。しいて出来ると言えば、野宿と洗濯ぐらいだ。それに加えて片足は義足。欠損令嬢となった今、誰かの嫁として生きるにしても誰も欠損のある令嬢を欲しがらないだろう。 「……いっそ、一人で放浪の旅に出てゆっくり暮らせそうな場所を探すか。敵が来ても自分で追い払えるのだし」  そう決意して帰宅したリリーは。  案の定、両親に全力で止められた。
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