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「元々冒険者になってほしくなかったんだ!」
普段はキリっとしていて厳格さを纏った怖い雰囲気を持つリリーの父、バディス・ルシアンは大げさなアクションで泣きながらそう叫んだ。涙に混じって言葉の節々が聞こえずらかったが、要約すると「喧嘩っぱやい娘のことを心配し、わざと厳しい訓練学校にいれることでコテンパンにやられてもらって女性としての道を進もうと考え直してもらうつもりで冒険者の道を許可していた」ということだった。だから世界でもトップと言われる冒険者育成学校に入れてくれたのかとリリーは納得したが、心からの応援ではなかったと今更知り複雑な気持ちであった。
「まさか英雄になるまで強いとは思わなかったんだよぉ! もう二度と戻ってきてくれないんじゃないかと心配していたところで、やっと、やっと帰ってきたのに一人旅に行きたいだなんて! 二度と帰ってこないつもりだろうリリー!」
「そんなことないわ。年に数度は帰ってくるつもりですもの」
「ほらぁ! 月に一度以下じゃないかぁ! そんなのパパは寂しくて耐えられない!」
「ええー……」
冒険者になってからリリーは確かに家に帰る回数が減った。とくに英雄になった後は年を一つ重ねても帰らないほどだった。帰ってくるたびに両親は歓迎していたが、まさかここまで寂しがっていたとは思わずリリーは困り果てた。
「英雄となった時は貴女の夢を邪魔しないように寂しさを隠してきたのよ。でも今は違う。貴女は片足がないの。1人で生きていくには不便な体になってしまったのよ。そんな一人娘を一人旅に行かせる親がどこにいますか!」
ハンカチを目に当てながらヨヨヨ、と声を上げ泣きじゃくるリリーの母、ミリア・ルシアンの言葉にリリーは気まずそうに義足の方である足の太ももをさすった。
「心配かけてしまったのは……その……ごめんなさい。目の前の命を助けるのに必死だったとはいえ……2人が大切に育ててくれた私の身体を傷物にしちゃって……ごめんなさい」
自分の気持ちを尊重して育ててくれた両親の心配をかけてしまったのは事実。リリーは申し訳なくなり心から謝罪を口にした。
それを受けた両親はバっと顔を上げ涙を吹き飛ばした。
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