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「そうよ、リリー。とってもいいお話なの。だから、ね? 是非お母さんが用意したピンクのドレスを召してみない? 髪も黒く染めたらきっと昔のように可愛らしいリリーに戻れるわ」
一気に話が進んでいくだけでなく、強制される自分の未来にリリーは愕然とした。誰かの嫁になる未来はあるだろうと思ってはいたが、こんなにも急に、怒涛の勢いで決まっていくものとは思っていなかったリリーは信じられない思いで首を横に振った。
何故なら、そこにリリーの意志は一つもないのだ。
今まで、自分の意志で英雄として進んできたリリーにとって。
他人によって強制的に進まされる人生は苦痛以外のナニモノでもなかった。
「……バカーーー!」
言いたいことはたくさんあったが、あまりの情報量にリリーは爆発した。子どものように両親をたった一言で罵倒し、家から飛び出した。身に纏っているのはいつもの冒険者服ではなく、バディスが特別に注文してくれた紺色のリボンを腰に巻いた青色のドレスで、動くたびにスカートがふわりとカーテンのように広がりガータベルトと黒ストッキングの足が見えるがその分走りやすい。下着が丸見えになりそうにも見えるが、太ももより上の下着は青いスカートとは別に隠れたもう一枚の紺のスカートが上手く隠していて下品ではないギリギリの上品さを保った仕様故走ることを可能とした。
動きやすいドレスがいい、と頼んでこれを作ってくれたのは感謝だが、変わりに人生の全てを決めていいだなんてリリーは言っていない。恐らく自分の思考が子どもっぽいのがダメなのだろうとわかってはいても、気持ちがついていかないリリーは冒険者の頃に歩き慣れている貴族の土地と平民の土地を繋ぐ外道をがむしゃらに走り続けた。元冒険者だったのもあり、魔法で馬車よりも早いスピードで走り続けた。義足ではあるが、魔法を使えるリリーにとってそこは全く問題がない。
とにかく一人になりたかった。
そう思い走っていたリリーの耳に。
馬の悲鳴が滑り込んできた。
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