第四章 ターニング・アラウンド

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 ***  翌日、貴臣は昴と連れ立って、彼の家を訪れた。  以前、思ったとおり、そこは荒川沿いのタワーマンションだった。  昴の父親は、貴臣が拍子抜けするほど穏やかな様子で出迎えた。  内心、怒鳴りつけられることを覚悟していたのだが。  想像していたような居丈高な感じではなく、昴の父親の印象は有能なビジネスマンそのものだった。 「昨晩は息子が世話になったそうで」と礼まで口にした。     実は、激高して昴のスケッチを破いてしまったことをだいぶ悔やんでいたらしい。  後で母親から訊いた、と昴が言っていた。 「だからって許せることじゃないけど」  絶賛、反抗期中の昴は口をとがらせていた。  親に逆らうことなんて、一度もなかった一人息子の突然の反抗に、両親ともに戸惑っているというのが、どうも事の真相らしい。  良い香りのする紅茶と手作りクッキーを前に、貴臣は父親と対面した。 「一介の大学院生のわたしが言うことなど、信用できないとおっしゃられるかもしれませんが」  と前置きしてから、貴臣は昴に対する考えを述べはじめた。
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