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思いがけない再会に、内心少し動揺していたけれど、周囲に悟られないよう、貴臣は平静を装った。
「名前はなんて言うの?」
「遠野昴です」
声はけっこう低かった。
もう少し高い声を想像していたが。
室内がまだざわついていたので、貴臣は、手をぱんぱんと叩いて注意した。
「ほら、休憩時間じゃないぞ」
それから行儀良く椅子に腰かけている遠野昴に話しかけた。
「ずっとそこに座ってなくてもいいよ。自由に移動していいから」
「はい」
彼の横顔を盗み見る。
この鼻のライン、やはり一級の芸術品にしか見えない。
「何年生?」
「あ、2年です」
「芸大行きたいんだね」
「えっと……はい」
昴は一瞬、ためらいを見せた。
「もし芸大志望じゃないんだったら、ここに来る必要はないけど」
「いえ、受験したいです。そう思って来ました」
今度はきっぱりと言い切った。
しばらくすると、アトリエ内のざわつきも収まり、画用紙に木炭がこすれる音だけが聞こえるようになった。
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