第一章 出会い

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「ここ、もう少し影を強調したほうがいい」 「形取れてないぞ。もう一度よく見て」  貴臣は生徒たちのデッサンをまんべんなく見回りながら、順番にアドバイスを与えてゆく。  一回りして見学中の昴に目を移すと、座ったまま、すぐそばにいる生徒の手元をじっと見つめていた。  貴臣はバッグから私物のスケッチブックと鉛筆を出し、差し出した。  昴は驚いた顔で見上げた。 「描いてみる?」 「えっ、いいんですか?」  彼は弾んだ声で答えた。 「ああ。ただ見てるだけってのも、退屈だろうし」 「はい! 実は描きたくてうずうずしてました。ありがとうございます」  昴は嬉々としてスケッチブックをめくりはじめた。  そして、目の前の机に置かれた、リンゴをじっと見つめ、当たりをつけはじめた。  貴臣はしばらく後ろからその様子を眺めていた。  脇目も振らずに、一心に対象に挑んでいる。  全身から描くことの喜びが伝わってくる。  どの生徒も絵を描くことが好きでここに通っている。  だが受験という壁が立ちはだかっているせいか、昴のように目を輝かせてデッサンにいそしむ生徒はあまりいない。  この様子なら問題ないだろう。  貴臣はまた他の生徒の見回りに戻った。
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