第一章 出会い

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「見ていて思ったけど、きみは本当に絵を描くのが好きなんだな」  貴臣の言葉を受け、昴はぽつぽつと話し始めた。 「めっちゃチビのころから、とにかく描くのが好きで。紙だけじゃ飽き足らなくて、部屋とか廊下の壁にも描いて母親によく叱られてました」 「ああ、わかる気がする。さっきも子供みたいに描くことに夢中だったから」 「えっ、さすがにもう高校生だし。そんなことは、ないけど……」  昴は照れくさそうに小声でつぶやき、頭を掻いた。  色白の頬に赤味がさしている。 「じゃ、あそこの窓口で手続きしたらいいから」 「はい。ありがとうございました。えっと……」 「小川だよ。小川貴臣」 「じゃあ小川先生。明日からよろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしく」  知っているのに初対面のふりをするというのは、妙な気分だ。  貴臣は昴の後ろ姿を見ながら、そう思っていた。  だが、わざわざ、あの日のことを口にする必要はないだろう。  ほんの一瞬、すれ違っただけなのに、きみのことを覚えていたよ、なんて言ったら逆に引かれるだろうし。    
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