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貴臣は、基本的に人と深く関わるのが苦手だった。
といって、極端な人嫌いというわけではない。
数は少ないが友人といえる存在もいる。
けれど、どんなに親しい相手であっても、貴臣は彼らとのあいだに見えない壁を築いてしまう。
深く関わることで傷つきたくなかった。
それなら、はじめから浅い付き合いでいたほうがいいと思っていた。
顔を合わせれば言い合いをする両親の元で育った。
いつしかふたりの喧嘩を見ないふり、聞かないふりすることを覚えた。
自分が傷を負わないように。
そのことがこの性格に大きな影響を与えていると思う。
「貴臣って、とっても優しいけど、たまにぞっとするほど冷たい」
高校時代の元カノが彼を評した言葉だ。
普通の恋人らしい交際を望んでいた彼女の束縛に耐え切れず、結局、3カ月で別れたのだが。
だから遠野昴とも、特別親しくなりたいと思っていたわけではなかった。
たしかに彼の容姿には、思わず惹かれた。
でも、それは……
たとえば、茜に染まる夕焼けの空の色とか、朝露に濡れる、繊細に編まれた蜘蛛の巣の模様とか。
そうしたものと同列に、自然が生み出した造形物として、彼を美しいと思っただけだった。
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