第一章 出会い

13/20

95人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
 貴臣は、基本的に人と深く関わるのが苦手だった。  といって、極端な人嫌いというわけではない。  数は少ないが友人といえる存在もいる。  けれど、どんなに親しい相手であっても、貴臣は彼らとのあいだに見えない壁を築いてしまう。  深く関わることで傷つきたくなかった。  それなら、はじめから浅い付き合いでいたほうがいいと思っていた。    顔を合わせれば言い合いをする両親の元で育った。  いつしかふたりの喧嘩を見ないふり、聞かないふりすることを覚えた。  自分が傷を負わないように。  そのことがこの性格に大きな影響を与えていると思う。 「貴臣って、とっても優しいけど、たまにぞっとするほど冷たい」  高校時代の元カノが彼を評した言葉だ。  普通の恋人らしい交際を望んでいた彼女の束縛に耐え切れず、結局、3カ月で別れたのだが。  だから遠野昴とも、特別親しくなりたいと思っていたわけではなかった。  たしかに彼の容姿には、思わず惹かれた。  でも、それは……  たとえば、茜に染まる夕焼けの空の色とか、朝露に濡れる、繊細に編まれた蜘蛛の巣の模様とか。  そうしたものと同列に、自然が生み出した造形物として、彼を美しいと思っただけだった。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加