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〈subaru〉
帰り道、昴は心が晴れ晴れと澄みわたっていくのを感じていた。
今日は自分にとって、記念すべき日だ。
すごいことがふたつも起こった。
まずひとつめは、計画通りデッサンの授業の申込ができたこと。
10万円近い受講料を支払うときは、さすがに足が震えたけれど。
そして、もうひとつは、ずっと忘れられなかった人、小川先生に出会えたこと。
昴の描きたい気持ちを察してスケッチブックを渡してくれたとき、心臓が飛びだすかと思うほど、胸が高鳴った。
この、貴臣への好意が何から発するものか、自分でもわからない。
そばにいるだけで、こんなにドキドキする相手は初めてだった。
中学から男子高に通っていることもあり、昴は恋愛経験がなかった。
じつは、男女の別なく、昴への憧れの視線はあちこちから届いていた。
けれど、その方面にまったくうとい彼は、いつも気づかずにスルーしていたのだけれど。
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